第6話 二人の秘密(後編)
こうして小説とイラストは私と神代くん二人だけの秘密になった。
神代くんと別れ、教室に戻ると複数の生徒からの視線を感じ、注目されているのが分かる。さっき彼を教室から引っ張り出したのを見られていたせいだろう。
「友火! 冬人と何かあったの⁉︎ なんか二人して慌てて教室から出て行っちゃったけど……友火が男子生徒とどっか行ちゃったって、さっきまで教室がザワついてたよ」
――やっぱり注目されちゃってたか……あの時はとにかく慌ててたから何も考えてなかった。
「べ、別に何もないってば。神代くんが落し物したから拾ってあげただけだよ」
「でも、二人とも教室から出て行って暫く帰って来なかったし……」
教室から神代くんを連れ出した時の一連の行動は、ただ落し物を拾って渡しただけには見えないだろう。だからといって本当の事を話すと小説の事もバレてしまう。そこで私はとっさに思い付いた事を話した。
「えーと、神代くんが落とした紙に何というか……ちょっと……エ、エッチな絵が描いてあったから、つい慌てて廊下に出ちゃったというか……」
とっさの事とはいえ、二次元美少女イラストの事をバラしてしまったのでは? と焦ったが半分は本当だし他に思い付かなかったし、まあ春陽なら口止めしておけば大丈夫だろう……だといいな。
――神代くんごめんなさい! いきなりバラしちゃいました……
彼の顔を思い出し、心の中で拝むように謝った。
「ああ……そうだったんだ。冬人のやつ、絵の事はバレないように気を付けるって言ってたのに」
変な言い訳だったけど春陽は納得したようなので良しとする事にする。
「春陽は知ってるの? 神代くんの絵の事?」
「うん、冬人とは中学から一緒だけど、中学の時に女の子の絵を描いているのが知られてから、イジメって程じゃ無いけど
――ああ、なるほど……だからか……
「そっか、神代くんには内緒にするって言ったのに申し訳無い事しちゃったな。春陽にはバラしちゃったけど……春陽は元々知ってたから結果オーライだね」
バラしてしまった事は棚に上げて、私って結構ズルいなと自分でも思う。
「じゃあ、私は聞かなかった事にしてあげる。口止め料はどうしよっかなぁ〜?」
そんな私の後ろめたさを知ってか知らずか、春陽は口止め料と称する下校途中に立ち寄りして食べるオヤツを要求してきた。
「もう、分かったわよ。何か奢ってあげるから一緒に帰ろ!」
「ごちそう様です! StandBackコーヒー(通称スタバ)のフラペチーノでいいかなぁ? もちろんグランデね!」
「グランデは高いからトールにしなさい!」
「はぁい、それで手を打ちまーす」
「じゃあ、春陽行こう。もう外は暗くなってきたよ」
オレンジ色の夕陽が差し込む教室を、春陽と二人で後にした。
神代くんにバラすと言った時、慌てようが面白くて笑ってしまったが、笑い事では無かった事に申し訳なかった、と再度心の中で謝まった。
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