第7話 二人の秘密(前編)

 放課後、殆どの生徒は帰宅し、数人の生徒が思い思いにスマホを弄ったり、ノートを開いたりして教室に残っている。放課後の教室は先程までの喧騒が嘘のように静かであった。


 ――あっ! 『Fuyuto』さんに返信するのすっかり忘れてた……


 スマホの画面を眺めながら、私は大事な事を忘れていたのに気が付く。


 何でこんな大事な事を忘れていたんだろう? と疑問に思いながら、昨日から浮かれていた事を反省し、すぐさま『Fuyuto』さんにダイレクトメッセージで返信した。


『Fuyutoさん初めまして! フレンドリー・ファイヤです。返信が遅くなって申し訳ありませんでした。小説をいつも読んで頂いてありがとうございます! 晴夢とアナスタシアの素敵なイラストまで描いて頂いてとても嬉しいです。とてもお上手で驚きました。Pixitでイラストの公開は是非お願いします。それと、お願いがあります。イラストをこちらの小説の挿絵として使用させて頂いてよろしいですか? それではお返事お待ちしています』


 素早くメッセージを送り、返信が遅くなった事で機嫌を損ねていないか、心配しながら『Fuyuto』さんからの返事を待つ。



「おお! やっと来た!」


 返信を終えてひと息吐いたのも束の間、前方の少し離れた席に座っている男子が声を上げた。彼はクラスで特に目立つ事の無い印象の薄い、いつも眠そうにしてる男子だったが、神代かみしろくんの事はちゃんと覚えている。


 そんな神代くんの独り言は、呟きにしては大きな声だったせいか、教室の他の生徒から注目を浴びていた。だが彼は、そんな事を気にする様子もなく、熱心にスマホの操作に興じている。


 神代くんの呟きで意識が奪われてから一分も経たない位だろうか、ピロンとスマホからの着信音が響き、彼に向いていた意識が中断される。

 通知の内容を確認すると『Fuyutoさんからダイレクトメッセージが届いています』と『めざし』にメッセージ着信のお知らせだった。


 ――返信はやっ! メッセージおくってから、まだ一分くらいしか経ってないわよね?


 メッセージを開くと、ついさっき送ったイラストを挿絵の利用をお願いする返信に対する『Fuyuto』さんからの返事だ。


『こんにちはFuyutoです。返信ありがとうございます。挿絵の件ですが是非使ってください。後で高画質の画像も送りますので、よろしければ加工して使ってください』


「やった! 挿絵で使える!」


 喜びのあまり思わず大きな声を出してしまい、恐る恐る周りを伺うと、他のクラスメイトからの視線が自分に集まっている。通学路での鼻歌で注目されていた事も思い出してしまい、カーッと身体中の血液が顔に集まってくるのが自分でも分かった。



 少し気持ちも落ち着いた頃、前方の席に座っていた神代くんが立ち上がり、彼の手に持ったノートから、何か白い紙のような物がハラリと落ちたのを視界の隅で捉えた。落とし物に気付かず、彼が教室を出ようとしている。


「あっ! 神代くん、何か落としたよ!」


 声を掛けながら神代くんに駆け寄り、拾った白い紙を何気なく見る。紙に描かれたモノが目に飛び込んだ瞬間、私は驚きを隠せずに呟いた。


「晴夢……アナスタシア……?」


 そこに描かれていたのは、昨日から嬉しくて何回も見た『Fuyuto』さんの描いた晴夢とアナスタシアと同じイラストだったのだから。


 なんで神代くんが……


 教室を出ようとしていた歩みを止め、振り返り何かを言い掛けた神代くんは、私の呟きを耳にした瞬間、驚愕に目を見開き、私と目が合う。

 お互いに見つめ合った数秒間であろう沈黙は彼の一言で終わりを告げた。


 ――フレンドリー・ファイヤ……?

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