第3話 秋月友火は人気者

「いってきまーす!」


 ファンアートをもらった翌朝、爽快な気分で目が覚めた私は、まるで遊びに行くかのように鼻歌を歌いながら玄関を出て学校に向かう。


「友火! おはよう! 今日は朝からご機嫌だね」


 クラスメイトの咲間春陽さくまはるひが今日も元気いっぱいに声を掛けてきた。彼女はいつも元気な明るい性格で、クラスで一番仲が良い。


「おはよう春陽。私そんなに機嫌良さそうに見える?」


「うん、見える見える、だって見えるも何も……通学路をスキップしながら鼻歌を歌ってたよ?」


「え⁉︎ 私、鼻歌歌ってた? しかもスキップって……」


「うん、思いっきり聞こえたよ。ふふふーん、って何の歌か分かんないけど、可愛い歌声に他の学生たちも目線が釘付けだったよ。特に男子。面白いから暫く観察してた」


 通学路を鼻歌を歌いながらスキップなんて、考えただけでも恥ずかしいのに、実際に自分でしてたなんて……穴があったら入りたい……


「は、恥ずかしい……よりによって他の生徒に聞かれてたなんて……」


「にゃははは、ごめんごめん鼻歌を歌う友火も可愛かったから大丈夫だよ!」


 フォローしてるつもりだろうが、どこが大丈夫だか分からない。


「もう、春陽も観察なんてしなくていいから早く声掛けてよね! 先に教室行ってるから!」


 周りからチラチラと視線を向けられてた事に気づかない程浮かれ、無意識に鼻歌を歌っていた事に恥ずかしくなり、小走りに通学路を駆け抜け学校に向かった。



〜 昼休み 〜



 私は春陽と昼食を食べながらお喋りに華を咲かせていた。春陽本人は自覚していないようだけど、彼女は可愛くて人気がある。私達がクラスメイトの男子から注目されていると感じるのは、気のせいでは無いと思う。


「友火、今日は朝からご機嫌だったね? 何か良いことでもあったの? 通学しながら鼻歌なんて歌ってたし」


 朝の恥ずかしかった事を思い出させないで春陽! そんなことはお構いなしの春陽は更なら爆弾を投げ込んできた。


「ははーん……男かい! 男でもできたのか⁉︎ 友火はモテるけど男っ気ないからねえ……いよいよ春が来たのかあ⁉︎」


 春陽が興奮した様子で机から身を乗り出す。


「ち、違うって! そんなんじゃないってば!」


「まあまあ、友火くん……彼氏の事は隠さずにオジさんに聞かせておくれ」


「もう……何で彼氏とかの話になるのよ。彼氏なんて居ないってば」


「それじゃあ、気になる男性が出来たとか⁉︎ それはそれで事件だわ……。友火に想われる男性とか、どんだけ幸せなのよう!」


 春陽の興奮は収まらないようで、ある事無い事を言ってくる。


「春陽! 好きな人とかもいないから! 恥ずかしいから止めて!」


 周りの男子生徒から「おい……秋月に彼氏いないってよ!」、「気になる男子もいないみたいだし、アプローチすればワンチャンあるかも……」、「俺告白するわ」とか、ヒソヒソ聞こえてくるんですけど……恥ずかしい……


「もう! 変な噂立てないでよね!」


 そんな面白がっている春陽を横目に私は溜息を吐いた。





「うーん、まだ返事が来ない。イラスト気に入ってもらえなかったのだろうか?」


 昨日、“フレンドリー・ファイヤ“にダイレクトメッセージを送った俺は、朝からそればかり考え思わず溜息が出てしまう。


「おいおい、秋月に彼氏が居ないと分かった、こんな目出たい時に何溜息ついてんだよ」


 相変わらず能天気な大介が声を掛けてきた。


「そんな事より俺の方は失恋しそうだよ」


 失恋どころか恋もした事もないが、なんとなく失恋したような気持ちになり溜息を吐いた。


「秋月に彼氏がいない事を、そんな事呼ばわりするお前は凄いと思うぞ。冬人は秋月に興味ないのか?」


「まあ、興味が無い訳じゃないけど、割とどうでもいいかな? どうせ付き合えるわけでもないし」


 実際のところ秋月とクラスメイトという事以外は特に接点は無いし、秋月の一挙一動を気にしてるのも面倒だ。


「まあ、お前には咲間がいるしな。で、失恋って咲間の事か?」


 大介は何かと俺と春陽の仲を疑ってくる。


「なんでそうなるんだよ? 春陽は中学から一緒だけど、そんなんじゃないし、ただの友達だぞ。……まあ、失恋ってのは冗談だよ、冗談。例えの話」


「本当か? 自分だけ彼女作って抜け駆けとかないだろうな〜?」


 大介は疑いの眼差しを向けてくる。鬱陶しい事この上ない。


「お前達、なんか楽しそうだな」


 そんな会話に割って入ってきたのは、俺の数少ない友人でメガネ男子の月島誠士つきしませいじだ。名前の通り誠実な男で学級委員であり、成績も優秀である。


「誠士、聞いてくれよ! 冬人の奴、咲間と仲良くして一人だけ抜け駆けで彼女作る気だぞ!」


「なんだ、神代は咲間と付き合い始めたのか?」


 おいおい……春陽との関係は否定したのに、大介の奴ありもしない事を吹聴しだしたし、誠士も大介の言ってる事を信用してるぞ。


「いやいやいやいや、誠士まで何で春陽と俺が付き合ってるとか言ってんだよ。大介の妄言に決まってるだろ」


 そう、大介は女子の事になると見境が無くなり妄言を吐いたりする。女子絡みの話は信用してはならないのだ。


「む、そう言われるとそうだな。女子絡みの柳楽やぎらの話は半分に聞かないとダメだったな」


 誠士も分かってくれたようで何よりだ。このまま変な噂が流れたら春陽にも迷惑が掛かるからな。


「ま、でも何か悩みが有りそうだな。俺で良ければ話くらい聞くぞ」


 大介は頼りにはならないが、本気で心配してくれてるようだ。


「大した事じゃないし、話してもどうしようもない事だからな」


「そうか。いつでも相談に乗るからな」


 ニカッと笑い俺の肩をポンと叩く大介。


 おお、なんか大介が一瞬カッコ良く見えた様な気がする。


「大介、今はちょっとだけお前がカッコ良く見えたよ」


 そんな俺の言葉に大介は気を良くしたようだ。


「今なら秋月に告白しても成功する気がしてきたぞぉぉ!」


 大介は調子に乗った。


「いや、それはない」


 俺は冷静にそして全力で否定した。


「えっ?」


 否定された事を素で驚く大介。マジで成功すると思ってたのかね。


「誠士、今なら秋月に告白して成功しそうだって大介が言ってるけど」


 誠士は、大介と秋月を交互に見比べ言い切った。


「うん、無理だな」


 誠士にも否定されるとは可哀想な奴だな。


「おい、お前ら! 頑張れよとか、上手くいくよとか、友達として応援するとか無いのかよ! 冷たいよな⁉︎ 冬人には咲間がいるし、誠士はモテるし、お前らは良いよなあ」


「ほう、やっぱり神代は咲間と親密な関係にあり、そして俺はモテるのか?」


「だ・か・ら・春陽とは何でも無いってさっきも言ったじゃん。大介、変な噂流すなよ。あと誠士は女子から人気あるぞ?」


 俺は何度も誠士に春陽との事を否定することになり、誠士は自分がモテる事を自覚していないようだ。ちなみに誠士は誠実で真面目であり、一部のメガネ男子好きの女子から結構人気がある。


「神代と咲間はお似合いだと思うがな」


「誠士、何度も言うが咲間とは何でもないからな。勘違いするんじゃないぞ」


 秋月本人による彼氏が居ない発言によって浮かれムードだった昼休みは、そんな他愛も無い会話で過ぎていった。


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近況ノートにキャラクター紹介(ビジュアルイラスト付き)を投稿しました。

ビジュアルに興味がある方はご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893583795


また、近況ノートにイラストに関するアンケートを行っていますので、御協力をお願いします。

https://kakuyomu.jp/users/t_yamamoto777/news/1177354054893603871

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