第2話 これが噂のファンアート
『グアアアア!』
『奴がやられたようだな……』
『フフフ……奴は我ら四天王の中でも最弱……』
『人間如きにやられるとは四天王のツラ汚しよ……』
学校から帰宅し、夕飯を終えた俺は部屋で机に向かい寛いでいた。
「ええ……このネタをそのままアレンジもしないで小説書いちゃうとか初めて見たわ……」
パソコンのモニターに映し出されている小説投稿サイトに連載されている小説を読みながら唸った。
今、読んでいるのは小説投稿サイト“小説家をめざしてね“略して“めざし“という小説投稿SNSに連載されている小説だ。
ブックマークしている小説が更新されていたので最新話を読んでみると……それは相変わらずのデキであった。
その小説のタイトルは――
【異世界に転生した俺は神様にもらったスキルでハーレムを作れるんじゃね? と思ったので作ってみた】
長いタイトルなので次からは“異世界ハーレム“と呼ぶ事にする。異世界に転生した主人公が神様から転生の際にもらったチートスキルを駆使し、ハーレムを作っていくストーリーで、それは“めざし系“と呼ばれ、よくあるテンプレ通りの内容であった。
そんなビミョーなデキの小説を何故読んでいるのか。それは絵描きとしてキャラクターに魅力を感じているからだ。
魅力的なキャラクターのビジュアルを想像すると、キャラクターを描きたくなる。“異世界ハーレム“はこの魅力的なキャラクターが居なければゴミと化すだろう。いや、今も限り無くゴミに近いが。そんなゴミの中にも光るモノがあったのだ。
今まさに“異世界ハーレム“のメインキャラクターを勝手にデザインして描いているところだ。コピー用紙にラフを描き下描きも終わった。そしてパソコンに取り込んだ下描きを元にペン入れ、彩色をしてカラーイラストの完成だ。小さい頃から紙で描いているので、パソコンでCGを描く時でも下描きまで紙と鉛筆を使ったアナログで描く事が多い。
こうして描き終わったキャラは主人公の“
完成したイラストをPixitと呼ばれるお絵描きSNSで公開して良いかの許可を貰う為に、“異世界ハーレム“の原作者に“めざし“からダイレクトメッセージを送った。宛先はペンネーム“フレンドリー・ファイヤ“だ。ペンネームからしてアレだな、と苦笑しつつキーボードを叩く。
『いつも異世界ハーレムを読ませて頂いてるFuyutoと申します。異世界ハーレムのキャラクターのイラストを描いてみました。Pixitに公開の許可を頂きたいと思い、ダイレクトメッセージを送らせて頂きました。イラストは今、非公開にしてありますが、以下のアドレスからアクセスすれば見る事が出来ます。パスワードは「fuyutoXXXX」です。
http://www.pixit.com/xxxxxx/xxxxxxxx/
返信して頂けたら幸いです。これからも更新を楽しみにしています。
それではよろしくお願い致します』
送信ボタンをクリックし、ふぅ、とひと息つく。
「こうやってメッセージ送るのも緊張するもんだな」
パソコンのモニタに映し出されたキャラクターのイラストを見直す。
――うん、我ながら良く描けた、喜んで貰えるといいな。
期待に胸を膨らませパソコンをシャットダウンした。
◇ ◇ ◇
「はー、お腹いっぱい……ちょっと食べ過ぎちゃった」
お母さんの作る料理は美味しいから、つい食べ過ぎちゃう。最近、体重が増えてきてるから気を付けないと。
夕食を終えてリビングで寛いでいると、テーブルの上に放置していたスマホがブブッと振動し、着信音が鳴り響いた。確認すると“めざし“に、ダイレクトメッセージが届いた旨の通知だった。
なんだろう? 作品に対する新着のコメントでも無く、作者にダイレクトメッセージが届く事は稀だ。ダイレクトメッセージの差出人は“Fuyuto“、本文の内容に目を通す。
『いつも異世界ハーレムを読ませて頂いてるFuyutoと申します。異世界ハーレムのキャラクターのイラストを描いてみました。Pixitに公開の許可を頂きたいと思い、ダイレクトメッセージを送らせて頂きました。イラストは今、非公開にしてありますが、以下のアドレスからアクセスすれば見る事が出来ます。パスワードは「fuyutoXXXX」です。
http://www.pixit.com/xxxxxx/xxxxxxxx/
返信して頂けたら幸いです。これからも更新を楽しみにしています。
それではよろしくお願い致します』
――えっ⁉︎ これって私の小説に絵を描いてくれたって事? スマホでダイレクトメッセージの内容を確認した直後、部屋に戻り“めざし“のマイページにアクセスする。ダイレクトメッセージに記載されている、イラストのページのURLのリンクを期待に胸を膨らましてタップしパスワードを入力する。
「うわあ……凄い……」
スマホに映し出されたカラーイラストを見て私は思わず溜息を漏らしてしまう。スマホに映し出されたイラストが想像以上のクオリティであったから。
ライトノベルを好んで読んでいるせいで、そういった小説に使用されている挿絵のクオリティを私はよく知っている。“Fuyuto“のイラストは、それらに勝るとも劣らない出来の良さであり、驚きを隠せない。
「これが噂のファンアート……都市伝説じゃなかったんだ……」
私は喜びに身体を震わせた。小説のブックマークが増えるよりも、感想のコメントを貰うよりも何よりも嬉しかった。自分の小説の出来が良いとは決して思っていない。だから、続けて読んでくれている読者の存在は、連載を続けていく上でのモチベーションになる。それだけでもクリエイター冥利に尽きると云うのに、キャラクターのイラストまで描いてくれた熱心な読者が居た事に、原作者として至上の喜びを感じていた。
どんな絵を描いてるのかな? 他の作品も見てみよう。
私はベッドに寝転がり“Fuyuto“の作品へのリンクをクリックする。カラフルなサムネイルがズラッと並んだ。サムネイルの小さな画像ですら、“Fuyuto“のイラストの上手さが分かる。サムネイルをクリックし、ひとつひとつ作品を見て改めて思う。
――うん、やっぱり上手いなあ。女の子のイラストばっかりだけど、どれも可愛いし。
“Fuyuto“の趣味嗜好をそのまま現しているイラストは、
でも……ちょっとエッチなイラストも多いかな……うわ、見えそう……。
「ともかー、お風呂湧いたから入りなさーい」
ピンク色に染まり掛けた思考を母親の呼び声が遮った。
「は、はーい、少ししたら入るねー」
現実に思考を戻された私は、慌ててバスルームに向かった。
◇
脱衣所で部屋着を脱ぎブラジャーを外し鏡を見る。
うーん……なんか最近また大きくなった気がする。
洗面の鏡に映った自分の裸を見て溜息を吐いた。買ったばかりのブラジャーのサイズがすぐに合わなくなるという悩みを最近は抱えている。クラスメイトの女子に胸のサイズを羨ましがられる事が多いけど、大きければ大きいなりの悩みがあるんだよ、と言いたくなるが納得して貰えなさそうなので、いつもは曖昧に返事をしている。
ちゃぽん、と水音を浴室に響かせ、私は湯船に浸かりながらイラストの事を考え溜息を吐いた
はぁ……あんな素敵なイラスト描いてくれて本当に嬉しいな。
自分の書いた小説にイラストの挿絵があったらどんなに素晴らしい事だろう。そう考えて絵の練習をした事もあった。が、いざ描いてみると、その小学校低学年児が描いた様な絵を描き続け、心が折れた過去がある。
絵を描く事は心が強く無いと、努力し続けるのは大変だなと実感したものだ。何事も努力無くして上達する事は出来ない。だから、努力し続けている人を尊敬している。別に絵が下手でもいい、小説が面白く無くてもいい。上達する為に継続して努力し、作品を完成させる事に意味があると考えている。そういう意味で数多くのクオリティの高い作品を完成させている“Fuyuto“と云う人物は非常に好ましく思えた。例え、それが萌え系の少しエッチなイラストであろうと。
“Fuyuto“さんかぁ……どんな人かな? あれだけ上手いし、結構年上の人かな?
入浴を終えてベットに寝転び未だ見ぬ“Fuyuto“と云う人物に思いを馳せた。
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