第2話 お仕事です。

私立満帆学園。


男女共学の中高一貫校で、少子化と言われる昨今には珍しく、生徒数は2000人を超えるマンモス校。

それだけ多いと学園側も目が行き届かないところが出てくる、ということで、学園は生徒会に執行部の他に警務部というものを新設した。

執行部が主に学園行事の運営、各委員会との連携、学園や保護者との橋渡し役が主な役目なのに対し、警務部は生徒の心身の安全を護ることが役目となっている。

警務部は大きく三つの部署に別れており、校内パトロールや、校内で起きた揉め事などの鎮圧、いじめや暴力などの撲滅が主体の機動捜査隊、悩み相談や寄せられる情報の真偽を調査するのが主体の相談支援室、そして教職員や生徒会役員など力のあるものからの圧力やパワハラ、不正はないかなどの内部監査や、SNSやインターネット関連のトラブルの調査を行うのが保安対策室である。

この学校の生徒会は執行部、警務部共に評判が高く、卒業後は政治や司法、警察関係へ進む人も多い。

そんな警務部だが、真面目な生徒の集まりでは、ない。もちろん職務に関しては真面目にやっているが。どちらかというと問題児の集まりで──。


「ちょっと! あんた達なにやってんのよ!?」

「おー葉月ちゃん、お疲れー」

「何ってゲームだけど? 見てわかんない?」


悪びれずにしれっと言う二人に、立花葉月はがっくりと肩を落とした。


「見てわかるから聞いてるの! 警務部の人間が学校にゲーム機持ってくるなんて、他の生徒に見られたらどうすんのよ!?」

「えー、だってゲーム機を学校に持ってきてはいけません、なんて校則ないしさー」

「それに、こんな辺鄙なとこ誰も来ないって」

「相談事は支援室行くからなー。あっちは校舎内にあるし」

「もう、だから! そういう問題じゃないんだってば!」

「まあまあ、校則違反じゃないし、問題なくね?」

「ゲーム機を学校に持ってきてはいけない、なんて当たり前の馬鹿らしい校則、わざわざ作らなかっただけでしょ!?」

「だとしてもだ。校則違反じゃないんだからなんの問題ないわけだ」


もうだからー、と再び講義をしようと口を開きかけたところで警務室という名のプレハブ小屋の扉がコンコン、と鳴った。

そのまま無遠慮に扉が開かれる。


「外まで聞こえてるぞ。とりあえず稲葉

、神田。やるなら扉の死角になる位置でやれ。校則に記載がないとはいえ、扉を開けてすぐゲームやってる姿が見えるのは外聞が悪い」

「へーい」

「以後気をつけまーす」


葉月は見えなければいい、と言い切った警務部顧問に小さくため息を吐いた。教師のお墨付きもらってしまってはもう何も言えない。


「ところで先生。何か御用ですか?」

「ああ、そうだ。依頼を持ってきた」

「先生自ら?」

「誰かに頼めばよかったのに」

「まあ、ちょっと気になる案件だったからな。事を慎重に運びたい」

「ということは犯罪絡み?」

「おそらく。匿名のタレコミによると、生徒の弱みを握り逆らえないようにした上で、売春を斡旋している輩がいるらしい。まだ真偽はわからんが、保安対策室と協力して調査を進めて欲しい」

「了解」

「とりあえず、聞き込みと参りますか」

「わかってはいると思うが、事が事だけに慎重に。ただし、首謀者が見つかった暁には、容赦はいらない。後の事は任せる」


三人が頷くと、顧問はこの事件の資料を置いて校舎へと戻っていった。


「さて。どう動きましょ?」

「とりあえず…食堂かな?」

「だな。立花はカフェテラス、女子トイレ、女子更衣室」

「了解」

「その前に保対行って進展あったか聞いてみるか」

「んじゃ、とりあえず。動きましょ」


三人は立ち上がると、軽く身支度をし部室のドアノブにcloseの札と鍵をかけ、校舎へと足を向けた。




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