第6話 転移、そして出勤

「魔物とかがいっぱい出てきてカオスになるパターンじゃないか」


その可能性に思い至った雄二だったが、すぐにその考えは遠くに追いやられることになった。


その原因は、再び届いた上司からのLINE。


高田部長:まさか今日に限って寝坊で無断欠勤なんてないよな??そんなことになったら会社の不利益は計り知れないし、お前は間違いなく減給、最悪クビまであるからな


ヤバい。書面だけでもキレてるのが伝わってくる。


「サササテラ、もう十分だから行くわ!向こうに帰るかここでおとなしくしてるかしてくれよ!頼むわ!」

「え?ちょ、まだ転移魔法とかの魔法陣も詠唱も教えてないわよ!?」

「うん大丈夫!多分どうにかなる!」


あっけにとられるサテラを余所に、俺は鞄を手に取ると詠唱する。


「『テレポート』!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「だから、なんでいきなり魔法使えんだよ!!!頭おかしいのか!?」

「流石に引くわね…。あいつ一人で災厄潰せそうじゃない?」

「ああ…っていうか余裕だろ」


雄二の知らないところで変に期待されていた瞬間であった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


おとといサテラから教えられた魔法陣。サテラの知識にある魔法を全て教えてもらったが、やはりエルフらしいというか、風属性魔法に偏っていた。特に、闇属性魔法なんて一個もなかったと思う。だが、アナウンスさんには『魔法知識・闇』を含む全ての属性を手に入れたと言われた。

つまり、信じられないことにサテラに教えてもらった魔法だけでなく、『今までラノベなんかで読んできた魔法』まで使えるようになっていたはずのだ。勿論、メ◯ゾーマとかメ◯オとか含め。

ラノベでよくある話では、魔法を行使するときに必要なのは明確なイメージだ。多分、今の状況ではそれが適用されているんだと思う。つまり、俺は今までゲームやラノベなどで見てきた魔法を全て使えるようになったということ。

…まあ、著作権的な問題もあるしさすがに自重するけどね。


というわけで会社近くの路地裏に転移してきた俺。消費した魔力も大したことないっぽく、魔法を使えた喜びと身体中に魔力が漲ってるおかげでいつもより元気だったりする。


「おはようございます!遅くなって申し訳ありません!」

「やっと来たか!遅刻寸前だぞ!」


時計を見ると8:25と表示されている。危なかった。


「本当に申し訳ありません!それでは早速…」


そのまま仕事に入った。一応プレゼンは成功したしギリ遅刻もしなかったので一応は上司の機嫌を損ねずに済んだ。というか、サテラがなにかやらかしてないか心配で上司の機嫌を伺うどころじゃなかったが。


というわけで、仕事が終わったらプレゼンの打ち上げとか言ってる上司の飲み会への誘いを丁重に断り、路地裏に駆け込んで自分の家に転移した。



シュンッ


「あー!やっと帰ってきた!ちょっと来て!」

「え?は、ちょっ!」


俺が帰ってくるなりおかえりの一言もなくそう言って俺の服の袖を掴んだサテラは事情を話す間もなく転移魔法を発動した。



〜sideサテラ〜


「はあ…なんあのよあいつ…今の今まで魔法を使えることすら知らなかったヤツとは思えない…」


いきなり転移魔法を成功させてなんでもないことのように出勤していった雄二。実は彼女自身転移魔法を使えるようになったのは10年ほど前のことで、それまで50年ほど練習し続けてきた。

しかも、闇以外の属性の魔法に高い適正を持っていると言われるエルフ族でそれなのだ。人間で転移魔法を使えるなど太古の時代にいたとされる賢者くらいしかサテラは知らなかった。寧ろ、エルフや魔人族でも魔法を行使できるようになったその日に転移魔法という空間属性の上位に位置する魔法を使える存在なんて歴史上存在しないだろう。


「そーいや、結局向こうでなんにもしてないわね。せめて戦況だけでも確認しとかないと…」


転移魔法を発動、里にある自分の部屋へと転移する。


ドゴオォォンッッ!!


転移した瞬間、部屋の壁が爆砕した。

朦々とした土煙で視界が失われる。


「ッ!『ウインド』!」


即座に下級風魔法で土煙を払い、視界を確保。魔人族の攻撃で里は壊滅状態とはいえエルフの姫の部屋を破壊した不埒者を睨み付け…


「…え?」


そこにいたのは、魔人族や人間族といった知的生命体でも、魔獣などの獣でもなく―――


ウイィィン、ピピピッ――


「へ?」


直後、サテラの身体は強い衝撃を受けて吹っ飛んでいた。


「クッ…何が―」


腐ってもエルフの姫。咄嗟に、半分本能的に防御魔法を展開できたお陰で無傷だったが吹っ飛ばされたときにあちこちぶつけたようで身体の節々が痛む。


「『ミドルヒール』」


体中の傷が一気にふさがり、痛みが消えていく。しかし、それを気にする間もなく、


ピピピッ


「ッ!!」


即座に転移魔法を発動し、上空に逃れる。そのまま飛行魔法で空中に静止し、今度こそ敵の姿を見る。

少しづつ土煙が晴れ、露わになったその姿は今までサテラが見たことのないもの。

人型のスケルトンのような形をしているが、明らかに肉体の組成はスケルトンのソレと異なるとわかる銀色。骨ではなく、金属のパイプやコードのようなものでできているようだ。そいつの右腕は筒状になっていて、僅かながら硝煙を上げているのが見て取れた。サテラが前に見た人間の銃という兵器を大きくしたような形状。左腕は鋭利な刃物になっており、そういったことに造詣がないサテラでも一目で業物と分かる。明らかに生物ではないし正体も気になるが、そいつが敵だということが分かればそれで充分。


「『ファイアスピア』!」


中級火属性魔法。上級魔法は範囲攻撃が多いので単体相手では適さないので中級魔法を展開。都合10本の煌々と輝く槍が形成され、対象に向かって高速で飛んでいく。

しかし―――


ピピッ


敵の目の辺りが紅く光ったかと思うと、サテラが放った炎の槍は尽く迎撃され、空中で爆発した。


「くっ!じゃあこれなら!『ロックフォール』!」


敵の上空に直径10mはあろうかという岩塊が出現し、自由落下を始めた。


ピピピッ


敵も迎撃するが、もとの大きさが大きさなので砕けた岩もサテラより大きいくらい。敵はそんな岩の下敷きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に比べたら地球の災厄なんて軽いもんだった。 枯渇信者 @shamad

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ