幕間 世界と災厄

昔々。まだ世界と呼べるようなものもない昔。一柱の神がいた。最高神や破壊神などではなく、全てにおける神。その神はなんでもできた。地獄の業火と言われるような炎を出す魔法を使い続けることだって、電磁加速式の武器だとか超精密機器だとかが児戯に見えるほどの機械を作り出すことだって、生命を作り出すことだって。しかし、神とはいえ完璧な存在ではない。能力ではない。心がだ。そういった能力や道具でいろいろなことをしているうちに寂しいと思うようになった。友が欲しいと思った。

神は、生命を創り出し、知性を与え、自らの友にしようとした。しかし、所詮は自分で創り出した生命に過ぎない。そんなものを友にすることはできなかった。

そこで、神は世界を作った。敢えてほったらかし、自ら支配しないことで自分の想像を遥かに超え、自らの友たるものを得るために。神はいくつもの世界を造り、魔法が発展しやすい世界、科学が発展しやすい世界、人間種が力を得やすい世界、魔人種が力を得やすい世界、力が拮抗している世界、みなが共存できる世界…。とにかく、色々な世界を創って成長させ、いつか自分の想像を遥かに超える存在が生まれることを祈って…。

結果的に、その望みは叶えられた。魔法と科学、どちらも発展するように創った世界の住人が、世界の真相を知り、神が創ったという真相にたどり着き、神が創った世界の理を超えて神がいる空間まで到達してきたのだ。神は狂喜した。遂に、未だに圧倒的な力の差はあるとはいえ、自分に追いつく可能性を秘めた存在に出会うことができたのだから。

神は、その住人を含む種族を神界に迎え入れ、自らの眷属として他の世界の運営を命じた。正直、目的は達成できたのでその種族へのご褒美のような感覚だった。


―――だが、それが大きな過ちだった。


神は、その種族には自らができることを話していた。魔法、科学技術、それ以上のもの、それらを使えることを全て話した上で仲良くしたい、そう思っていた。

だが、その種族はこう思っていた。


『神をも超え、自分たちが神に成り代わろう』と。


神に世界の運営権を与えられた日から、彼らは神を殺す、若しくは無力化する方法を探していた。数多の世界を観察し、ついにその方法を見つけた。見つけてしまった。

それは、ある魔法世界で見つけた魔道具。『対象の意識を、耐性に関係なく奪う』という力を持った魔道具。

すぐにその魔道具がある世界に降り立ち、所有者を殺して奪った。

神界に戻り、もう油断しきっている神に酒を飲ませて酔い潰した(アルコールも毒の一種なので効いたりしないが、楽しむために毒無効などの能力をOFFっていた)彼らは、寝ている神にその魔道具を使用して力を封印した。

しかし、効果が完全に効く直前、朦朧とした意識の中で裏切られたことに気がついた神は咄嗟に彼らの権力を奪う魔法を使い、できることを『世界の管理』のみにした。

消滅させること等もできたが、長いこと仲良くしてきたことで甘さが出たのであろう。

兎に角、世界の支配権しか得られなかった上に隷属させられてあらゆることを封じられたその種族は、仕方なく形式上の神となって世界を管理するようになった。


しかし、流石にまた自分たちと同じように神界に足を踏み入れる存在がいたら太刀打ちできないので、科学と魔法を別離し、過剰な力を持たせないようにした。

なんらかの偶然が重なって2つが介在する世界が生まれた時は『災厄』と投じ、滅ぼすまでは行かなくても、どちらかを著しく衰退させることにした。


ただ、世界を創ったのも『災厄』という概念を生み出したのも神だったのでその内容はまさに神のみぞ知るというものだった。大きな自然災害が立て続けに起きる世界もあれば、狂気に満ちた魔物が大量発生して生命がほぼ全滅するような世界もあった。


だが、全ての災厄には共通点があった。『その世界の者は今までの力を超越する力を得る可能性を与えられ、見事災厄に打ち勝てばかつての彼らと同じように神界に足を踏み入れるチャンスが与えられる』というもの。


もちろん、そんなことになっては困るので彼らはいつも過剰ともいえる災厄を投じ、絶対に乗り越えることがないようにしていた。

実際、今まで失敗したことはなかった。


―――だが。


いくらありえない知識と頭脳をもっていようと、まさか一人の人間によって自分たちの存在が脅かされることになるとは思ってもみなかった。

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