第2話 科学と魔法
俺が一人暮らしする1Kのマンションの一室。
「んー!よく寝たー!爺、今何時ー?」
「11時だ。あと俺は爺じゃねえ」
「っっ!?」
俺はスマホのゲーム画面から目を離さないまま答える。
「あなたもしかしてあの時の…。ねえ、何やってるの?」
「終わったら説明するから一分ほど静かにして待っててくれ」
きっかり一分後。完膚なきまでに対戦相手を叩き潰してエルフの方を振り返る。
「…何か知らないけど終わったのね。じゃあ説明してもらうわよ」
「ああ、まずは―――」
俺は、ここは恐らく彼女がいた世界とは違う世界であること、俺、遠藤雄二は仕事の帰りに彼女を見つけたこと、魔法を使おうとしたら突然倒れたこと、彼女を抱えて一先ず自分の部屋に連れてきたこと等を説明した。
「っ!私に何する気!?いくら美人だといっても無理矢理孕ませようとするのは感心しないわよ!」
「違えよ!そもそも突っ込むところ違えだろ!っていうか自分で美人って言うな!せっかくの美人が台無しだわ!」
「嘘。私を見て発情しないなんて…。あなたもしかしてゲ…」」
「ゲイじゃねえよ!普通に性欲持ってるよ!理性が上回ってるだけだよ!」
「ふ〜ん、じゃあこんなことしても理性が勝っちゃう?」
そう言ってエルフは衣服を僅かにはだけさせ、その美しくも巨大な双丘が露わに…
「やめろ!俺はそんなあからさまなのは好みじゃない。こう、自然と溢れる色気みたいなのが好みなんだ。っていうか俺の好みなんかどうでもいいだろ!なんであんなところで倒れてたのか、それが聞きたい」
「へ〜。にしては下半身は正直に反応してるみたいだけどね」
「くっ、このエロフが…」
「んんん?今何かすっごい失礼な事が聞こえたような気がしたけど…」
「気のせいだろ。っていうか説明はよ」
「私、これでもエルフの姫なのよ?まあいいわ、ええとね…」
彼女の名前はサテラということ、人間と魔人の間で戦争があったこと、勇者のこと、爺が転移魔法の構築を失敗して距離が滅茶苦茶になったこと…
「つまり、逃がそうとしたらヘマやらかした爺のせいでこうなっている、と」
「そうよ!あいつ、自分ならまだしも人を飛ばすのにあんなミスする!?」
「いや、話聞いた限りそいつもあんたを逃がすために必死だったんだろ。許してやれよ」
「いーや、許さないわね。危うく殺されるところだったのよ!?身内に!」
「そ、そうか…。」
随分とヤバいミスだったようだな。
「っていうか帰る方法はあるのか?」
「それがわからないのよ…。精霊に話しかけても返事ないし、ここ何故か魔力ないし…」
「魔力か…。まあ、世界中探してもないだろうな」
「は!?じゃあここのエルフ…いや、生き物はどうやって生活してるの!?」
「エルフなんていないし魔法の代わりに科学が発展してるから問題ないんだよ」
「エルフがいない…?じゃあ魔人族とかはどうやって対処してるのよ?」
「んなもんいねえよ!っていうかこっちにゃ人間と動物だけで、魔人も亜人も獣人も魔物もいねえんだよ」
「本当…?随分と平和なのね…。え?じゃあ私ってどうやって帰ったらいいの?」
「知るか!俺に訊かれても分かるわけねえだろ!なんかこう、無から魔力を生み出す魔法とかねえのか!」
「無からって…あなた魔法の基礎も知らないの?魔力を作るなんて不可能よ」
「基礎とか言われてもそもそも魔法って概念が無いんだから分かるわけねえだろ!」
その時、サテラの腹がグ〜っと鳴った。
「………///」
「ナチュラルに恥ずかしそうにすんな。お、ちょうど12時だな。昼飯にすっか」
「…媚薬なんて効かないわよ」
「入れるか!」
俺は倉庫に入れてあった三分でできるカップ麺を2つ取り出してポットでお湯を注ぐ。
そこに…
「なーんだ、やっぱ魔法あるんじゃない。火も無いのに熱湯出すなんて火属性魔法しかないわよ」
「おい、危ないぞ!それ滅茶苦茶熱いんだから!」
「大丈夫。エルフには魔法ダメージ完全に効かないから…」
そう言ってそのたおやかな白い指でポットの加熱部分に触れ…
「あっつっっ!!!!」
弾けるようにのけぞり、
ゴッ!!
「あうっ!」
壁に頭をしたたかにぶつけ、手と後頭部を抑えて悶絶する。
「…はあ…。だから言ったのに…」
カップ麺にお湯を注ぎ終えた俺は薬箱から火傷によく効く軟膏を取り出してサテラの手に塗る。
「…?何これ?ヌルヌルしてる…もしかして精え…」
「んな訳あるか!火傷したとことにそんなもん塗るやつがいるわけねえだろ!っていうかそんな一瞬で出ねえよ!」
このエロフが…。下ネタしか言えないんじゃないか…?
三分後。
「ほら、できたぞ。この箸に絡めて食うんだ」
サテラにカップ麺と箸を渡す。
「何これ、人間の都市に何回か遊びに行ったことあるけどこんなの見たことないわね。…毒とかだったら即殺すからね」
「怖えよ!まあ美味いから食ってみ」
本当に渋々といった感じで少しぎこちない箸使いで麺を口に入れ…
「っっ!!!?」
すぐに二口めをかっ込む。随分と気に入ってくれたようで嬉しいがそんな勢いで食べたら…
「あづっっ!」
いわんこっちゃない。盛大にぶちまけやがった。俺の顔面にもちょっとかかってるよ…。
「ああっ、ごめんなさい!」
「大丈夫だからゆっくり食べてな」
すぐに布巾を持ってきて処理し、俺もカップ麺を頬張る。
っていうかこのエルフ、エロフ属性とドジっ子属性と姫?…キャラが渋滞してんじゃねえか。
「ごちそうさま。ああ、美味しかったわ。また食べさせてね」
「食ってすぐ要求かよ…。まあこんなもんで満足してくれるんならいいが…」
とりあえず後片付けをする。
「ねえ、何か私が手伝えることない?」
「自分が元の世界に帰る方法でも考えといてくれ。あと、この後片付けが終わったらちょっと魔法について教えてくれ。使えないにしても知っておきたいとは思うしな」
「分かったわ。…ってそういうことじゃなくて、それなりに家事とかもできるからそっちを何か手伝えない?っていう意味なんだけど」
「…いい。家事っつってもこっちの機械とか使い方わかんないだろ?それに…いや、いいや」
家事なんかやらせたらどんな悲劇が起こるかわからないなんて言えない。
「…。私が失敗するとでも思ってるのかしら?」
「大正解だ」
「正直すぎるのよ!」
ぶーたれるサテラを適当にあしらいながら後片付けを終わらせた俺はお茶を淹れてサテラの元に戻る。
「で、これからどうするつもりなんだ?」
「そりゃ、里に帰れたら一番なんだけど…」
「けど?」
「どうせ戻っても壊滅してるだろうしどうせならこっちの世界で遊んでから戻る手段を探したいっていうのが本音」
「お前も正直すぎんだよ!」
「私はいいの。ところで、魔法について、だったわよね」
そういや、一応頼んでいたんだったな。
「ああ、使えないにしてももしかしたら何か気づくこととかあるかもしれないからな」
「ほう?我々エルフが1,000年以上かけて発展させてきた魔法にケチをつけるつもりってこと?」
「いやー、話聞いた限りじゃサテラやその爺みたいな鈍臭い連中ばっかりなんじゃないかって気がしてな」
「くっ、否定できないから性質が悪い」
「否定しろよ!」
「もういい!ええと…魔法っていうのはね…」
それから10分以上サテラから魔法について講義を受けていたのだが…
「なあ、この魔法陣のこの線だけどさ、こう描いた方が効率良いんじゃないか?」
「!?」
「ここをこう書き換えたら効果がこうなると思うんだけど…」
「!?」
とまあ、素人目に見てもガバガバの酷い状態だったのだ。
「…雄二って本当は魔法研究の第一人者だったり?」
「違えよ!そっちがあまりにも酷すぎるだけだよ!」
「にしてもこんなこと気付く!?普通!」
やっぱエルフ、色々とダメダメだったみたいだな。
そして俺は…あることに気付く。
「なあ、この水魔法だけどさ…」
「ああこれ?どうかしたの?」
「ここ入れ替えたら魔力の流れが反対になるんじゃないか?ってことは水とかから魔力を生み出せるんじゃないかって思うんだが…」
「え?流石にそんなわけ…。……。…あ。ホントだあ…」
「良かったな。これで帰れるじゃん」
「そうだと思うけど…。本当にいいの?こんな美人に会えることなんてもう一生ないんじゃない?」
「うるせえ!多分美人なんていくらでもいるし、美人だなあって思いより鈍臭えなって思いのほうが強いから」
「酷くない!?こっちじゃエルフいないんでしょ?私のわがままボディ、堪能したくない?」
「……結構だ」
「やっぱり下半身は正直に反応してるわね」
俺のおかげでサテラが帰れるんならそれでいい。エルフの身体を堪能したいなんてそんなことは絶対にない。絶対に。
「へー、結構大きいのね」
「!?」
……‥見ると、サテラが俺のパンツを脱がしてブツを握っているではないか!
「あ、もう我慢汁出てる。もしかして童貞?…あーむ」
「うるせえ!…ア゛ァーーー!!」
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