第二話 新たなる学徒達を思うのは長だけではなく。
〈ライドリアの学舎〉。学長からの挨拶が終わってすぐ。新学徒達は、それぞれの教室に振り分けられていた。その中の一つ、第一学級〈アインの部屋〉。
「……まさか、リーツ・ターレット様が、ここの学長だとはなぁ。生ける伝説、……かぁっ! カッケかったなぁッ!」
紅い短髪、活発そうな見た目であり、また片腕のない少年が学長の名を出して興奮気味に語りかける。語りかけてるのは、同じような紅い髪色の少女だ。
「うるさい、ルーク。ちょっと黙ってて」
「んだよ。レーアも思っただろう? 熱いものが心臓に滾っただろ?」
「まぁ、ね。だけど、うるさい。今は、授業中」
「……へ?」
レーアの言葉によってルークは周囲を見回す。そこには整列された椅子に座るルーク以外の〈アインの部屋〉の面々。それをルークは今更になって把握した。
総勢五十人。脱落者が現れない限りは、彼らは数年以上の付き合いとなるだろう。彼ら彼女らは騒ぐルークに対して様々な表情を向けていた。
「あー、そうだぞ、ルーク・エンパイア、それにレーア・ナーストリア」
「な、どうして私まで!?」
「殴ってでも止めない当たり同罪だろ、幼馴染。まぁ、所詮は事務連絡だし、予め渡してある紙に書いてることをおさらいしているだけだ。話したいことがあるなら、別に話しても構わんしな。だが、……んー、そうだな。よし、面倒クセェ話は
以上だ、と告げて担任講師は去っていく。
「自由な人だなぁ……。って先生、名前何だっけ?」
「さぁ、自己紹介してないから分かんない」
ぽかん、と好き勝手に言って勝手に消えていく担任に、全員が同じような感想を持った。それは一から六まである全ての学級の全員が思うことであり、そして講師達がそう思わせたことでもある。
「まぁいいや。んじゃ、自己紹介でもしようぜ。したい人ー!」
そう言ってルークは唯一の手をあげる。
「びっくりするぐらい誰も寄ってこなかった」
「うるせぇな、レーア。あー、コホン、まぁ何だって最初ってのはプレッシャーだよな。んじゃ、俺から。俺はルーク・エンパイア。エンパイア家現当主だ。とはいえ、俺は未だ未熟者だ。そのせいで腕を失くしたりした訳で、だからこそここに来た。失った腕分くらいの元は取るつもりだから、よろしく頼む」
「……んじゃあ、私もしておこうかな。私はレーア・ナーストリア。ルークと同じくナーストリアの現当主。まぁ、ルークが隠すなら仔細までは言わないけれど、私達は幼馴染。腐れ縁というか、鎖縁というか、まぁ二人揃ってよろしく。んで、じゃあ、続く人とかいる?」
二人が自己紹介を終え、その次を望む。ルークとレーア以外の人々は互いを見回していた。ここで真っ先に自己紹介をすべきか、それとも次を待つべきか、と無意味な考えを頭で巡らせていた。ルークの言う通り、最初というのは難しい。プレッシャーであり、また初めてとは他人とは異なるという意味でもある。
人間とは、他人と同じを良しとする。【センドライズ】の中では個性や自由を良しとする風潮があるが、しかしそれは既存の個性という但し書きがある。それから逸脱することを、他己共に誰しもが恐れる。それが普通だ。
そんな空気の中でひょい、と手をあげる少年が一人。
「あー、じゃあ、はい。俺はユーズだ。そこの二人とは違って、家名はない。まぁつまり平民ってやつだ。正直、お前ら二人の自己紹介だと、もしかして貴族ばかりなんじゃねぇか、とびくびくしているんだが。……な訳で、純粋な疑問なんだが、この中で平民の出の奴らはどれだけいる? 手挙げてくれ」
「なら貴族の出の人間は着席でもするか。別に差別や区別じゃねぇ。むしろ、それらを無くす為に知る必要がある。あのリーツ様の言葉の通り、俺達は家族だ。だからこそ、今はお互いを知るべきだろう」
「おー、そうだそうだ。最近じゃ、あんまり出自で差別とかも聞かねぇしな。俺はルークを信じる。んじゃ、せーの」
「――ルーク・エンパイアとレーア・ナーストリア。まぁ、あの二人が主導するだろうとは思っていたが、しかし、ユーズかぁ、奴の行動は正直想定外だ。言っちゃ悪いが、他の奴らと同じように黙りこくると思ってたんだが」
[遠見]。視覚とは目が光を取り込み、それを脳が処理し映像として映し出すものだ。ならば入ってくる光を転移することさえできれば、どんな場所のものでも見ることができる。そういった理屈で成り立つ魔術で、〈アインの部屋〉を覗く男。隠すまでもなく〈アインの部屋〉を受け持つことになった担任講師、その名をシーサック・コーズ。
「シーサックさん、どうやら今年も楽しくなりそうですね」
その隣にいるのは五人の男女。全員がそれぞれ、自分の受け持つクラスを[遠見]にて観察していた。彼ら彼女らは揃って新たなる学徒であり、家族となった三百人達に期待し、目を輝かせていた。彼らはきっと未来を大きく変える、そんな素質を持った者達であると信じて。
「ああ、全くだな」
学長、リーツ・ターレットだけではない。〈ライドリアの学徒〉達全員が、新たなる学徒を歓迎していた。
彼ら彼女らが一体何を起こすのか。姉であり兄である先に立つ者達にどんな刺激を齎すのか、そんなことに胸を膨らませていた。
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