ぼくの かんがえた いせかい!
不皿雨鮮
零
第一話 新たな学徒達を前に長は何を思う?
その世界の約六割を占める巨大な大陸、アーク大陸。その南西に位置する国家【センドライズ】。それまで重要とされてきた魔術だけではなく、科学技術を活用することで独自の発展を広げたその都市の名は世界に轟いていた。
魔術は自分や他者、そして世界に溢れる魔素を用いて奇跡を生み出す。だがその奇跡で生み出しているものと言えば、暗闇を照らす光や、野生動物を追い払い、食べ物を調理する炎などなど。魔素は生命活動や世界の循環によって発生量に限りはあれど、無限に発生する。だから資源としては枯渇することはありえないが、しかしその効率は悪い。しかし、そこに科学技術を組み合わせたことで魔素の消費効率が数百倍以上に跳ね上がったのだ。
魔術と科学技術の合体は革命を起こした。日常生活においても、戦争においても。そうして【センドライズ】は、アーク大陸の約三割を統治する大国となった。
そんな【センドライズ】の中心都市セントラル。【センドライズ】の行政における中心地であり、若者達が知恵と力と技術を惜しみなく披露し続ける、世界で最も活発な都市でもある。
セントラルは、大いなる可能性を持つ子供達の育成にも力を入れており、その一つがアーク大陸において初の教育機関、〈ライドリアの
今年もまた、そんな〈ライドリアの学舎〉に優秀な子供達が学徒入りを果たしていた――。
新たに〈ライドリアの学舎〉の一員として迎え入れられた三百人の少年少女。歳は八歳から十二歳とばらつきはあるものの、彼らは【センドライズ】の中から選ばれた将来ある子供達だ。
「ようこそ、新たな学徒の皆様。
そんな彼ら全員を入れてもまだ半分も埋まらない広い第一訓練場。学徒達がいる場所よりも一メートル程高い壇上にて、白髪の女性が演説を始めた。
見た目は五十くらいだろうか。全盛期はとうに過ぎ後の任は若い者達に任せようと思うのが普通のそんな歳。本来なら後は隠居し、のんびりと余生を過ごすであろう年代だが、しかしその女性が漂わせる雰囲気は未だ若々しく、芯のある強さがあった。
「
名乗るだけ。それだけで学徒の中の数人はざわつく。そのざわつきを
その様子を見てもリーツは動じず、余裕をもった笑みで彼らを見渡し、告げる。
「なるほど少し勤勉な方々もいらっしゃるようですね。いや、知っていなければおかしい方々が、この中にいるということですかね。どちらにせよ、その件は内密に。ここは、そういった裏の世界の話を持ち込む場所ではありません。ただ純粋に、貴方達の望む知恵と力と技術と提供し、共有し、発展させる。そういう場なのですから」
〈ライドリアの学舎〉。選ばれし才覚のある子供達が集い、自らの才能を更に発展させる為の学舎。世界を今ある世界へと調整した大いなる存在の名前を冠したこの学舎は、多方面において世界から注目されている。
あらゆる面においての専門家が集い、更なる次元への到達を目指し、鍛錬を続ける。
あらゆる部門において他国の二つ三つ先を行く知識と技術は、【センドライズ】が大国であり続ける基盤でもある。かつての子供達がここで発展させた技術を元に、【センドライズ】を更に大きく強くさせていく。そうしてこの国は繁栄を続けているのだ。
「私達は、学徒は言わば一つ家族です。母であり父であり娘であり息子であり姉妹であり兄弟なのです。それを胸に、互いを称え合い、鍛え合い、成長していく貴方達の姿を、この〈ライドリアの学舎〉を守る長として、私は期待しております」
深い一礼の後、リーツは確かな足取りで壇上を後にする。第一訓練場の裏手に戻ると、控えていた一人の青年が駆け寄る。リーツの従者、セイン・トーランだ。
「リーツ様、お疲れさまです。素晴らしいお言葉でした。体調の方は大丈夫ですか?」
「ありがとう、セイン。体調は大丈夫よ、まだ私はそこまで老いていません。それは分かっているでしょう?」
「ですが、リーツ様」
食い下がろうとするセインの顔を、そっと手で遮る。
「貴方の心配の気持ちも分かります。ですが、もう少しだけ私を信頼してくれないかしら」
「……申し訳ございません」
「それに、例え両足が千切れていようとも、人を辞めようとも、私はこの学徒入りの会にだけは姿を表しますよ。それがこの学舎を開いた私の責任というものです」
「であるならば、その時は私もお供致します。私の命は貴方と共に」
「あらそれは嬉しいわ。やはり一人は寂しいものね。貴方がいてくれるのならば、それも紛れるというもの。つまらない人間かもしれないけれど、どうかずっと私の側に」
リーツ・ターレット。
数十年前、【センドライズ】中を恐怖に陥れた『
彼女が【センドライズ】を、そして世界を救うことになった物語は、しかし既に遠い昔の話である。
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