殺人計画

 俺はその日、家には帰らなかった。スマホの通知や着信もうるさかったから電源を落とした。

 俺はやりたかったことを初めて好きなようにできたと思う。

 あの長く苦しい日々は俺をねじ曲げていた。

 なににも楽しさを見出だせず、ただ生を浪費するばかりだった。

 やっと達成できたという優越感は、俺を更なる復讐に駆り立てた。

 もう種は撒いている。あの場にいたいじめをしてきたヤツらは今頃どう思っているだろう。

 まさかいじめていたことをすっかり忘れているなんてことはないだろう。

 忘れてたってあれだけ話したんだ。思い出してもらわなきゃ困る。

 しかしこれではヤツらが死ぬまで待たねばならない。俺の欲望はそこまで気が短くはなかった。

 それに死んだ後ではヤツら自身へのダメージが少ない。

 もっと苦しんでもらわないと、割りに合わない。いや、俺の気が済まないだけか。

 なんにせよ、俺はただ犯罪者が死ぬのを待ちながら、人生を無意味に過ごす気はなかった。

 死を間近で見たい。そう思うようになった。

 だからといって、ヤツらを殺す為だけに、ヤツらのせいで逮捕されるのも気分が悪い。

 ヤツらが死ぬのはヤツらの行いのせいでなくてはならない。

 俺は俺の手でヤツらを殺さない。

 その代わり、ヤツらが死ぬキッカケを作ってやろう。俺はそう心に決めた。

 俺が捕まらずに、人を死なす方法。それを見つけ出す。まずはそこからだ。

 そうはいっても俺にはそんな高度な知恵はない。あればこんなことに縛られずに、自由に生きられたと思う。

 ならどうするべきか。自分にないものはどうすれば使えるのか。

 普通の人間なら他者を頼るだろう。でも俺はそれができない。他人を信用していないから。俺がすべきは他人を利用することだけ。

 知識はひけらかすものではない。けれど持つ者たちはそれを自慢したがる。他人より長けていることを知らしめようとする。

 本当に頭のいい人間はそうではないのだろうけれど、中途半端な知識だけを手に入れた猿どもは違う。

 知識を手に入れた途端にそれをどう使おうかと浮かれ上がる。おもちゃを買ってもらったガキのように。

 そういうヤツらが集うのが、ネットの海だ。

 そこにはあらゆる知識が溢れている。

 検索すれば簡単に知りたい事柄を手に入れられる。

 それがどんな利用をされるのか、情報提供者は考えてもいないだろう。だから親切に丁寧に、バカでもわかるように書いている。

 利用するにはもってこいだ。

 だが、俺のスマホは電源を入れたら着信の嵐だ。それに今日の寝床が必要だ。ならいくべき場所は決まった。

 駅の周りはある程度の施設が揃っている。その中にある一つ、ネットカフェに入った。

 次のターゲットはあの場にいなかった柳瀬雄二にしよう。

 それには今の居場所や職場なんかも調べる必要があるが、SNSを使えばだいぶ楽に調べられるだろう。

 柳瀬も武本と同じくサッカー部で俺に暴力をふるった男の一人だ。

 中学校の中では悪童として有名で、よく悪さをして教師に叱られていたが、大人の言うことなんて耳にも入っていなかったように見える。

 今も悪さをしているのかもしれないが、それはそれで死なせる意味が濃くなる。

 未成年の頃にしでかした過ちを、その後の善行でチャラにできるわけがない。

 だから俺を苦しめた人間は残らず死なす。

 今までなんの楽しみもなく生きてきて、納税と労働の義務を強いられていた中で、やっと楽しさを見出だしたのだから、これからの人生に色を取り戻さねばならない。その最初の色はあいつらの血の赤だ。

 悪人の血の赤はどうせ濁っているだろう。それでも真っ黒な人生よりかは幾分マシだ。

 自分で手を下さずに死なせるとは言ったものの、なかなか難しい。

 自分とは違う人間の思考を読み、死にたくなるような状況を作り出せればいいが、まずどんな思考なのか、そこにたどり着くのが難しい。

 それも踏まえてまずはSNSをチェックしよう。

 さすがに本名で検索できるものは少ないが、そこにヒントが眠っている。

 例えば本名で作っていたアカウントに、なにもコメントなどがなくとも、好きな言葉や誕生日、気に入っているニックネームなどがわかればそこから普段からよく利用しているSNSのアカウントが見つかる場合が多い。

 柳瀬のアカウントも十分もあればたどり着いた。

 ここからおおよその行動範囲と心理を読み取って、計画を練っていく。

 心の高ぶりを実感できる今、俺は生きているんだ。

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お前が死んでやっと俺が始まった 鳳つなし @chestnut1010

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