実行をすれば影響が出る

 12/30 18:59


「無理」

 ふらふらと歩いてきた彼を強引に洞穴の中に引っ張り込んだ。

「そんな体調で、しかも前も見えない今から山を下りるなんて無理!」

 むにゃむにゃと小声で反論をする彼をぐいぐいと奥へと押しやる。

「風の音に勝つ位の声も出せないのに無理だよ」

 何とか風の音が小さくなる位置まで入ると彼を座らせた。

「でも、俺が下りる方が単に成功率高いよ……。雪を助けるには他に方法が」

 座り込んだ彼の横。

 死体。

 死体が横にあるけれど、もう彼にそれを気にする余裕がない。

 選択肢がない。私は私の幼馴染に、私の恋人には死んで欲しくない。

 選択肢がない。ここから出る事は出来ない。この吹雪を止めることはできない。

 選択肢がない。この洞穴を温かくする事は出来ない。

 選択肢がない。彼を助ける手段が一つしか思いつかない。

「……出来たら嫌わないで欲しいなあ……」

 彼に肩を貸して洞穴の奥へ奥へと歩く。

「むしろ、僕が、見回れますって、言ったったせいじゃない?」

 ――だから嫌われるのは僕じゃないかな。

 その言葉に私は首を振った。

「これから嫌われるんじゃないかなって」

 選択肢はある。

 一つだけだけども。私の気持くらいしか変わらない物だけれど。

「……もし、明日の朝に春くんが起きたら。その時は」

 ――血を頂戴。


 ぽかんとした彼の顔を見て、どんな顔をすればいいか分からないのでとりあえず笑って見せた。スキーウェアを脱いで彼に被せ、衣服は全部彼にかけた。

 裸をこんな形で見られるとは思わなかったなあ、と一瞬のんきなことを考えて前へ倒れこむ。地面に手がつく頃には自分の手は人の物でなくなっていて、四足で歩き回る獣に変じていた。

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