余裕がなければ選択肢を増やせない

 12:30 18:46


 時間が経っても雪は止まない、風は止まらず。

 私達は洞穴の奥で口少なく体を寄せ合っていた。

「……起きてる?」

「………………なんとか」

 私のかけた声にだいぶ遅れて帰ってくる返事に不安になる。

 春君が寒さに弱い、ということではなく単に軽い服装でのスキーをする習慣があったことがこんなに響くとは思わなかった。

「起きててね、外見てくるから」

 彼が頷いたのを見て立ち上がった。何時もなら率先して気を回してくれる彼が、この調子で私の心も逸り始める。スノーボードのブーツの歩きやすさに感謝しながら洞穴を外に向かい、遺体の傍を抜けて見えてきた外は変わらずの吹雪いている。

 そのまま一度外に出る。

 見回す。

 暗くなったことは余り問題ではないけれど、気温は夜を迎えピークに達している。

 夜の闇に包まれているだけならまだマシで、視界を覆う白い粉雪の群れの前では方向の見当もつけられない。洞穴に入る前、大凡歩いて来たであろう方を向いてもそこには白っぽい闇があるだけだった。

「……どうしよう……」

 一か八かで山を下る、何て出来る状態ではなかった。

 視界があってもゲレンデ外の雪山での滑走には危険が付きまとう。

 視界もなく、方向を定める事も出来ず、雪面の確認もできないまま飛び出せば万に一つくらいは助かるかもしれない。でも、万に一つしか助からない。誰かが探しに来てくれている事を期待して辺りを見回しても、この雪では互いに視認も期待できない。

 一か八かじゃない方法を考えないといけない。

 そんな事を考えた時に洞穴の中からスキーブーツの足音がした。

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