準備に対して滑り足りない
12/30 13:37
三本目の滑走を終えてリフトに乗る。
「……春くん早い。やばい早い」
リフトの支柱にもたれ掛かって息を切らせた雪の言葉に一応手を抜いてるんだぜ、とは言えず。
「いや、ほら天気がさ」
なんとなく辺りを指し示す。
昼頃に強くなり始めた雪と、それに合わせて少しずつ強くなる風。ゆっくりとだが天光は悪くなっていて。
「天気悪くて滑り納めにするにしても三本しか滑ってないから勿体なくてさ」
山の天気は変わりやすい、けどこの程度の悪化は変わったうちじゃないと僕は思う。
山の天気が変わるときは、それこそ転げ落ちるように悪くなる。2分前は見えていた目の前視界があっという間に白く覆われる。一分前は感じれていた太陽の温かさが突然遮断される。そして、大勢いたはずのコースに一人きりと感じるような状況になるようなこともあるのだ。
「まあ、確かに三本しか滑ってないのにそれはもったいない、気がしちゃうよね」
雪の同意と同時に胸に刺さった無線機が一瞬の雑音にこう伝えてきた。
≪都内旅行者グループ、一名不明。毛無山頂よりコース外に入ったとのこと。天候悪化につき各自出来る範囲で注意を払ってくれ≫
声にこっちを向いていた彼女と顔を見合わせる。
僕は別に監視員やスキー場の関係者ということはない、けれどスキー場のブームは十数年前に去ってしまい。現在のように少しずつ回復してきたスキー人口だったが、去っていった経験者が戻ってきたわけではなく。単純にスキー場で働ける人が足らない。
そこで地元民であり、ある一定以上の腕前のある僕たちのような学生や土日は地元で和解グループに入る奴らにリフト券と引き換えに監視がてらの滑走を頼んでいる、といった実情がある。
彼女が頷き、僕は無線を手に取る。
≪こちら平川、現在リフト上。毛無から降りるので注意了解≫
返答をして空を見上げた、リフトはまだ途上。天候の悪化もまだ途上。
空の鉛色が重々しく僕たちを見下ろしていた。
「……荒れそうじゃない、天気」
ウェアのジッパーを挙げて首をきっちり覆った彼女。
僕も倣うようにジッパーを上げ、グローブのベルクロをきつく締め、ブーツの上のバックルを締める。
それに倣うように自分のきっちりと寒くなる前にウェアの各所を締め上げた。
「っていうか、雪は先に降りて欲しいんだけど?」
横目に告げる。
「一人で探すより二人だし、バックカントリーの雪面での浮力ならスキー板よりボードだと思うよ?」
「……まったくその通りで」
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