バスを待つにも少し寒い

 12/30 11:23


 チャイムを鳴らす。

「平川春人君はいますかー?」

 家の中からの返事は聞こえていたのだけど、私の性格上それは入っていい合図ではないので再び声をかけると廊下をドタドタと走る音、彼の声が聞こえて戸が開く。

「お邪魔します」

 何時もの言葉を告げて私は彼の家に入る。

「しっかし、開いてんだから入っていいべよ。雪。みんなそうしてんよ?」

 彼の言葉に首を振って何時もの言葉を伝えた。

「礼儀の問題だからね」

 そっかそっか、といつもの返事が返って来て頭に積もってた雪を大きな手で払ってくれる。

 私達が物心ついてからずっと続いているルーチン。

「東京で出来た友達の家の玄関ガチャっと開けそうで怖いよね春くんは」

「予習位してるわ。あと、大晦日は地元のヤンキーと大して変わらんのな」

「……それは特殊な例だよ?なに?まとめサイト?SNS?」

「……特定早くないですか綾瀬雪さん」

 マジかこいつという顔を見せる彼。

「いや、それはいいんだけど準備できてる?」

 背中のボードを見せ付けながら尋ねると彼は廊下に一瞬引っ込みスキーケースを持って現れた。

「任せとけってワックスも完璧、だと思う」

 そう言って彼はスマホを弄って今日の天気と湿度を見て満足そうにうなずいた。

「……スキーに関してはマメなんだよねえ」

「強化選手だからな」

 思わず漏れた呟きに合いの手を乗せられた。


 外に出てバスを待ちながら私達はくだらない話をする。

 ケースに入れるの地味に面倒とか、でもエッジで人がケガするとか、今年は暖かいから雪の状態が不安だったとか、もうすぐ卒業だねえとそんな他愛ない話を。

「でも、受験勉強の合間にスノボとか余裕じゃん?」

「……推薦取れるまで高校の勉強を頑張り続けて進路のせいでセンターを受けなきゃならない苦しさは春くんには分かんないのよ……」

 わざと重々しい口調に切り替えてため息をついて見せた。

 けど慌てる彼を見て折角作ったしかめ面も崩れてしまう。

「……まあ、正直慌てるほど時間残ってないしね。三年間を信じたほうが気が楽なので私は」

 バスが来るのが見えて立ち上がる。

「でも……ちょっと吹雪そうな雲が来てるよねぇ」

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