007 黒猫との出会い ~07~

 周囲に人の気配は無く、ヒューっと風の音が辺りを満たせる程の静寂が涼雅とカイを包み込む。早朝、二人は修行のために天野橋山あまのばしさんに居た。


 天橋立山は昔から人が立ち寄らないことで有名で、行けば怪物に襲われて一生、人の目に当たらず閉じ込められる、といった都市伝説が数多くあった。


 カイは魔法の修行を行うにあたり、人が寄り付かないことが絶対の条件だと譲らなかった。涼雅自身も他人に見られて良い事があるとは思っていないため、カイの提案には二つ返事で了承した。


 そしてカイはもうひとつの条件を言った。

「なるべく、自然なものがたくさんあるところがいいかな!」

 二つの条件を満たすものを涼雅は考え、天橋立山が最適だと判断して、二人は天橋立山の山腹にある広場に辿り着いた。


「ここ初めて来たけど、嫌な雰囲気だね」

「そう?ここはたくさん魔力があるから、オレッチとしては最高なとこだよ」

「魔力が沢山あると良いことあるの?強くなるとか?」

「単純に調子が良いってだけ。体が軽くなるって感じかな?」


 そう言いながらカイは猫の様に顔を手で拭った。

「……こうして見ると本当に猫みたい」

「何か言ったか?」

 涼雅の呟きにカイは反応した。慌てて涼雅は訂正して、カイに向き直った。


「じゃあ早速始めようか。……ここから早く帰りたいし」

「なんでそんなにビクビクしてるだ?」

「ビ、ビクビクしてないよ!いいから早く始めよ!」


 涼雅は言えなかった。子供の頃、都市伝説を信じて本気で怖がっていたことを。一人で行くのは無理だが、カイや魔法があるから大丈夫、と、頭の中をポジティブで埋めつくすために徹夜もした。


「じゃあ早速始めようかー」

 ふわぁ、と小さな欠伸あくびをしたカイは涼雅に指示した。

「じゃあ早速、ウガッチ。あの魔力に魔法を使ってみて」


 カイは尻尾で魔力を指した。ふぅ、と涼雅は一呼吸置き、集中して指された方を見た。

「分かった。ライオンハンド!」

 集中して見ることで涼雅は魔力を視認することができる。涼雅の発声から黒いライオンの手が魔力に伸び、そのまま魔力を掴んだ。


「これからどうするの?」

 掴んだ状態のままカイに尋ねる。

「この間は敵の魔法に向かってやったことを覚えてるよね?その時は相手に返すことで何とかなった訳だけど、本当だったらもっと色々出来たんだよ!」


「具体的に言うと?」

「炎とか風も付けたり、別の魔法にしたりとたくさんあるんだよ!」

「えっと、」


 カイの説明に涼雅は戸惑いながらも理解を深める。

「要は相手の魔法に炎とか風を付与できたり、魔法そのものを変えられるって事だね?」


「そんな感じ!それは今度やっていくとして……」

 カイは一呼吸置き、続けた。

「ウガッチには自性色じせいしきを取り入れた魔法を使ってもらいたい!」

「じせいしき?」


 聞き慣れない単語に涼雅は首をかしげた。

「自性色っていうのは、ウガッチの魔力をウガッチに変換して組み込んであげること!」


「どうしよう、分からないな……」

 今の説明だけでは分からないかった涼雅の顔を見たカイはすかさず言った。

「とりあえずやってみて!そこに座って目を閉じてみて」


 言われるがまま、涼雅はその場に座り込み、目を閉じた。カイは涼雅の近くで座り込んだ。


「カイ、これからどうしたら」

「はい、集中してね」

 カイから魔力が放出されることを目を閉じながらも感じた。そして、涼雅に誰かが囁いてきた。

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