005 黒猫との出会い ~05~

 ピピピ、ピピピと指定の時刻に到達したことを伝えるアラーム音が鳴り響く。白竜との戦いで気を失った涼雅は、カイが発動した魔法により、涼雅の家に運びこばれた。カイに運ばれる光景は、歩く猫の後ろに気絶した人が浮いていたものであった。


「ん、もう朝……?」

 鳴り響く携帯電話を手に取り、反射的にアラームを停止する。停止の処理を受けた携帯電話はアラーム画面からメイン画面に遷移せんいする。メイン画面の中央上部に時刻が表示される。


「やばぁぁぁい!寝坊した!!」

 表示された時刻を認識した涼雅は飛び上がり、そのままの勢いで身支度を開始した。

「もぅ、うるさいなぁ」


 カイは慌てる涼雅を横目に「ふわぁ」と欠伸をしてから目を閉じる。

「ごめん!でも急いでるから!じゃあ行ってくる!」

「よく分からないけど、いってらっさーい」


 請負屋から借りているスーツを着て、髪型を数秒で整えると家を飛び出した。

「昨日あんなことがあったのに、ウガッチは元気だなぁ……」


 家に出た涼雅は自分の自転車を引っ張り出し、カバンをかごに入れると猛スピードでペダルを回した。

 いつもは30分程で到着する距離だが、今回は15分で到着した。しかし涼雅は到着までの時間を確認することなく、息切れをしたまま会社へと駆け込んだ。


「おはようございます!遅れてすみません!」

「おぉー、これはこれは重役出勤ですなぁ。アルバイト君」

 涼雅が挨拶と謝罪を言うと、すぐに返事が返る。


城戸きど課長、すみません!」

「アルバイト君には遅刻してはいけないということは知らないみたいだね」

 スーツをビシッと決めた40代でぽっちゃり体型の城戸きど宗善よしむねは涼雅を雇っている課長。はやれやれといった様子を見せる。


「いえ、そんなことは」

「アルバイト君には荷が重いかな?ん?」

 詰め寄りながらプレッシャーを与える城戸。冷汗が止まらない涼雅に助け船が入る。


「まぁまぁ、城戸さん。漆君も謝っているのでそのくらいに」

「これはこれは、瀬田くん。アルバイト君を構う暇があるとは。随分余裕があるみたいだね」

「そういうわけではありません。ですが、こういうこともあるかと」


 涼雅に助け船を出した瀬田に城戸が突っ掛かる。が、それはすぐに解かれた。

「まぁ今回は大目に見るが、次は無いと思いたまえよ」

「はい、気を付けます。ありがとうございます」


 城戸は乱暴に椅子に座る。それを見届けてから瀬田と涼雅はその場から離れる。その間に瀬田から小声で城戸のことを聞いた。

「城戸さんね、半年くらい前から人の当たりが強くなったの。それまでは優しい人で、あんなこと言わなかったのに」


「自分は1ヵ月くらい前に来たので知らなかったです…」

「そうよねぇ、前は優しすぎて部下にも強く言えない人だったのに」

「何かあったんでしょうか?」

「そういう本を読んで影響されているだけならいいのだけど。」


 瀬田はそう言い残し、自分の席へと帰っていった。涼雅もそれを見届けると自分の席に着き、一呼吸置いてからPCを起動した。


 仕事もしないとだけど、カイとちゃんとこれからのことを話さないとな…


 カイのことを少しだけ考えてから、今日の仕事に取り掛かった。仕事に取り掛かるところを城戸は気づかれないように鋭く睨む。

「まだ、足りないのか。もっと威厳を持たないと……」


 その呟きは誰にも気づかれることはなく、城戸の内を高める引き金となっていった。

「ん?」

 涼雅は何かの気配を感じ、城戸に気づかれないように確認した。しかし、城戸は何食わぬ顔でPCを睨んでいた。


 気のせいかと、判断してから涼雅は再びPC画面に視線を戻した。それから涼雅が仕事から解放されたのは21時を超えていた。

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