003 黒猫との出会い ~03~

「契約?」

「…………うん」


涼雅の質問にカイは力無く返す。涼雅は体を起こし、カイの前に座り込む。

「もしかしてこれまずいことになってる?」


カイを見るに自分が何か良くないことをしたと感じ、カイの様子を伺う。

「契約は絶対だから、もう変えられないんだ」

「その契約って何なの?」


カイは諦めたようにため息をつくと、説明を始めた。

「契約したら死ぬまで外れなくて、外れたら片方は苦しむ。だからそうならないように頑張る」

「なるほど」


全然分からなかったので、矢継やつぎ早に涼雅は質問をした。その質問のおかげで明確になる。


カイがまず何なのかとまとめると、カイはこことは違う世界から逃げてきたとのこと。カイのような生き物を魔獣まじゅうと呼び、多種多様な生態を持っている。カイは獅子しし種というのに分類されている。


次に契約についてだが、これはまず涼雅が触れた物について説明がいる。涼雅が触れた物は人魔結晶石じんまけっしょうせきという物で、人間に魔力を施すことが出来る人間と親和性の高い物らしい。人間のみで触れることで魔力を得られるが、涼雅はカイが身につけている状態で触れたため魔力以外に魔獣との契約が発動したとのこと。


そして契約について。契約を行うことで人間と魔獣は通常よりも質の高い魔力が得られる。片方が絶命することで契約は解かれるがデメリットがある。生き残った方は生涯解かれることのない呪いにかかる、とのこと。


「ふぅ、こんなところか」

涼雅はカイから聞いた内容をまとめる。もっと深くに質問をしたかったが、カイは一つの質問に飽き、次の質問を要求してきた。


「そういえば人間、お前の名前を聞いてなかった」

「俺の名前は漆 涼雅。好きに呼んでよ」

「じゃあウガッチだな!」

「……まぁいいけど」


涼雅は内心変な呼び名だなーと思ったが、訂正する気はなかった。先程の騒動と質問の解釈に疲れていたし、会社から戻ったばかりだったのも理由としてある。


「じゃあ早速魔法についてだが」

「そうだね、そこは聞いておかないと」

「基本的に俺っち獅子種は魔法を発現することが出来ない。それは契約したウガッチも同じことになる」


「え?でもさっき宙に浮いたのは…」

「それについては獅子種の特性について教える必要がある」

真剣な顔つきのカイにならい、涼雅も気を引きしめる。


「他の種族は自分の魔力を消費して、炎やら風やら色々なことを発現することができる」

「うん、それが魔法ってことなんじゃないの?」

「獅子種は特別で、魔法の発現はできないけど、全ての魔法を操作することができる最強の魔獣なんだ!」


カイはドヤった顔で見てくる。

「またよく分からないことを」

「じゃあ早速魔法を見せてやる!」


頭を抱えた涼雅に、カイは前足で涼雅の左後方を指す。

「契約して魔力を感じられるようになったはずだから、そっちを見てみ」


涼雅は言う通りに左後方を見やる。何も無いように見えるが、そのまま見続けると、バレーボールくらいの大きさの透明な塊が空中に浮いているのが見えてきた。

「それが誰にも管理されていない魔力、って呼んでる」


「これが魔力ってものか。触れられないんだね」

魔力の塊に手を伸ばしても、触れることは出来ず、すり抜けてしまう。カイはふふん、と笑う。


「そしてこれが、俺っちの魔法!」

カイは先程と同じ様に毛を逆立てる。するとカイの背中から白いものが伸びた。その白いものは、猫の手になっていた。


「これが獅子種の魔法!ライオンハンド!」

「え、」

猫の手じゃん、と言いかけ、すぐに口をとじる。カイから伸びた手は浮いている魔力まで伸び、到達すると同時にグッと掴む。

「驚いたか?そしてこれが獅子種の最強たるワザよ!」


掴まれた魔力は小さな竜巻になり、次第に消えていった。

「掴んだ魔力は管理下になり、自分のイメージしたものになる」

「おぉ、すごい」


「ここまですぐに形にするのは練習がいるけどね」

「これが魔法……ん?魔力が無かったら何も出来ないんじゃ?」


涼雅の疑問にカイはがっくりとする。

「ま、まぁ確かに、他に魔力が無かったらどうしようもない時もあるけど……」

「最強の魔獣なんじゃ……」

「で、でも!ほかにも応用してできることが……」


慌ててカイは喋ろうとしたが、それは出来なくなった。


「見つけたぞ、獅子種の生き残りよ」

「え?」

「まさか、ここまで追って」


カイは窓に向かい、カーテンの隙間から空を見上げた。

「人間の世界で魔法が発動されるのは稀にしか無いからな。見つけることは容易よ」


「ウガッチ!逃げるぞ!」

「ちょ、ちょっと!説明してよ!」

「いいから早く!」


涼雅はカイに急かされ、慌てて家を飛び出した。そこでカイに話しかけていた者を上空で視認した。

それは巨大で真っ白な龍だった。

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