002 黒猫との出会い ~02~

 黒猫から聞こえてくるが、声のような音を出す機械もない。そのことから発信源は黒猫からであることを表した。


「え?今喋った?」

「あれ、ここはどこだ?」


 明らかに黒猫が日本語を話している。それは理解は出来ても納得するには至らなかった。


「うわ、猫が喋った!?!?」

「うわ、なんで人間が!?!?」


 両者驚き、時間が止まったように硬直したが、すぐに黒猫の空腹音が打ち壊す。


「……食べる?」

「え!?いいの!?」


 涼雅の返答を待たずして、弁当に黒猫が閃光のような速さで食らいつく。その速さに驚きながらも涼雅は少しだけ安心する。


「とりあえず元気になってよかった」

 声をかけたが、黒猫は一心不乱に弁当を食べ続ける。

 あれ、猫に人間のご飯あげていいのかな?、と思うが、その心配も余所に黒猫は平然としている。黒猫の顔の下に赤く光るものが見えた。


 まぁ、最悪病院連れてばいいか、と自分に言い聞かせ、涼雅は湯たんぽにするつもりだったお湯をカップ麺に注ぐ。カップ麺が出来上がる頃には黒猫は仰向けで寝転ぶ。


「いやー、美味かった!助かったぞ、人間!」

「それはよかった。でも色々と質問させてくれ」

「食べたから眠い」


 黒猫は面倒くさそうに言い、瞼を閉じる。がすぐに目を開く。


「でも助かったから質問することを許してやろう!」

「それはどうも」

 何故上から言われているのが分からないが、横槍を入れて質問する時間が無くなるには惜しいと判断し、言いたいことをぐっとこらえる。


「えっと、なんで喋れるの?」

「意思疎通を行うには会話をするのがベストだから今話せるようにしている!」

「それはどういう意味、」

「あぁ、知らないのも無理ないか」


 黒猫は涼雅の言葉を遮りながら、寝転んだ体勢からお座りの体勢に変えた。

「俺っちには魔力があるから、それを人間が聞こえる様に変えているのさ」


 ………………魔力?

「ゲームとかマンガとかの定番のやつ?」

「げーむとかまんがとかっていうのが分かんないけど、理解できるならその解釈でいいと思うぞ」


「いやいや、そんなのありえないでしょ!?」

 涼雅はすぐには納得出来なかった。

「じゃあ俺っちが喋ってる理由はどう説明する?」


「…………うん、とりあえず猫の言うことに納得するよ」

「んー、おかしな人間だ。前に人間に遭遇した時は「おれつえーー」とか「いせかいさいこーー」とか楽しそうに言ってけど」


 異世界転生に憧れる気持ちは理解出来た涼雅は、その言葉で黒猫が嘘を言ってないことが分かった。


「そ、そうなんだ。分かったよ。猫が言うことを信じるよ」

「さっきからねこって言ってるけど、俺っちのことを言ってるなら訂正してほしい。俺っちはカイっていう名前がある」


「あ、名前までちゃんとあるんだ。じゃあカイはどうして駐輪場にいたの?」

「ちゅうりんじょう?」


 カイは話は通じても涼雅の世界のことは理解していない様子だった。駐輪場や、遭遇した人間の言葉に理解していないのがそれを裏付ける。


「そうそう、すぐ外にあるとこ、」

「あーー!!!忘れてたー!!」

 カイは大鳴き声、もとい、大声をあげた。


「ここは人間の世界なんだな!?」

「ま、まぁそうなるかな」

「よし!!成功した!!!」


 1匹で喜んでいる様子を見て、涼雅は質問をするのを止めた。

「よく分からないけど、よかったね」

「じゃあ世話になったな!」


 カイは右足を上げて、挨拶らしい仕草を見せると玄関の方に向かう。

「もしかして、外に出るつもり?この寒さじゃ猫には厳しいんじゃ」


 親切心で言ったつもりだったが、カイは違う受け取り方をしたようで、玄関に向かっていた足が止まり、首だけをこちらに向けた。


「だから俺っちは、ねこっていう名前じゃないってさっき言った!」

「え、うわ!」


 カイが言い放つと、涼雅の体は宙に浮かされた。それはカイが引き起こしたということは容易に理解出来た。


「次俺っちのことをねこって言ったら容赦はしないから」

「ご、ごめん」

「ついでだから俺っちの強さを見せてやる!」


 涼雅の方に向き直ったカイは、毛を逆立てる。魔力をさらに込めようとした瞬間、

「うるせーぞ!」

「にぎゃ!?!?」


 隣の部屋からドン!っと、俗に言う壁ドンを壁越しに部屋全体で受けた。それに驚いたカイは猫らしく飛び上がった。


「おわっ!」

 そしてその影響は涼雅に向けられた。涼雅はさらに上と浮かび、その勢いのまま天井とぶつかる。その後は重力に従い、床に叩きつけられた。


「いたた」

「こ、これに来れたら二度と名前を」

「あれ、これは?」


 倒れ込んだ涼雅は右手で柔らかい感触を得る。十中八九カイに触れていることと悟り、少しだけ手を動かすと、硬い何かに触れた。その瞬間、硬い何かは一瞬で消えてしまった。


「今なにか硬いものがあったような」

「…………えぇ!?もしかして触れたのか!?」


 カイは前足で首を念入りにまさぐる。

「……ない。やってしまった…………」

「ごめんね、もしかして壊しちゃった?」


「…………」

「あの、大丈夫?」

「…………………………」


 カイは動かず、何も言わない。が、ゆっくりと涼雅に近づき、ポンと前足を涼雅の頭に置く。


「契約が結ばれたみたい……」

 カイのその表情は絶望に満ちていた。

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