パラレルミックス

岩下けん

001 黒猫との出会い ~01~

12月20日。カチ、カチ、っと静寂の中に時計の音が響き、それに対抗するようにキーボードのタイプ音が連続で鳴り響く。


「これで、終わりっと」

とどめを刺すようにエンターキーを叩くと、背もたれに体を預ける。


うるし 涼雅りょうがは今年で16歳の高校生。身長175センチで痩せている訳ではなく、太っている訳でもない普通の学生。特徴といえば、どんな髪型にしても、ある程度の長さになると髪の毛が自然と跳ねる、所謂いわゆるアホ毛があることだ。


そんな普通の学生である涼雅はとある会社の一室で1人でパソコンを操作していた。時刻は21:50頃になっていた。


「あ、やばい。早く出ないと」

未成年である涼雅は22時以降の労働が出来ないため、急いでパソコンをシャットダウンし、会社を出るために急ぐ。


「はぁー、疲れた……」

「あれ?漆くん?」

涼雅が会社から出る数歩前で後ろから呼び止められる。


「あ、お疲れ様です」

「そっちもご苦労さま。こんな時間まで仕事させちゃってごめんね?」


涼雅を呼び止めた人物はスーツ姿のキャリアウーマン。身長170センチくらいで黒のロングヘアーが美しさを物語る。一目で美人と断定できるほどの容姿の持ち主の彼女は申し訳なさそうな顔をした。


「いえ。全然大丈夫ですよ。これも自分の仕事なので」

「そうは言ってもねぇ」


涼雅は呼び止めたの瀬田せた洋子ようこは頭を抱える。

「もっと早く上がらせられるように課長には私が言っておくから」

「ははは、ありがとうございます。でも大丈夫ですので」


「んー、本当にごめんね」

「はい、それではお先に失礼します」


涼雅は足早に会社を出ると、駐輪場に向かった。その表情は少し赤らめていた。

「瀬田さんに声かけてもらえてラッキー!」


小声ながらも白い息が外の寒さを演出し、涼雅は自転車のロックを解く。

そして、自転車を漕ぎ出すと同時に立ち漕ぎにチェンジし、一気に加速した。


「仕事終わりのこの時間が1番好きだけど、明日の事を考えると萎えるなぁ……」

明日も仕事が入っているので、仕事が終わっても終わった気がしない涼雅はため息をつく。


涼雅が通っている学校は通信高校であり、自宅で勉強しながらもアルバイトをしている。アルバイトの内容は請負屋というものをやっており、簡単に言うと依頼があればなんでも対応するアルバイトである。


「給料はいいから、割り切るか……」

涼雅は朝から夜まで仕事を振られ、それに対応していた。


家に着くまでに明日やることを考えていた。そこでふと仕事のことを考える自分を客観的に見てみる。

「何か社畜みたいだなぁ……。ってこれじゃあ本物の社畜に申し訳ないか」


家にたどり着く同時に、仕事のことを無理矢理に忘れて、自転車を止める。そこである違和感を覚えた。

「ん?何かいる?」


駐輪場の隅に黒い何かがいることに気づいた涼雅はそれに近付く。黒い何かは近付く涼雅に何もリアクションを取らない。


「これは……猫?」

黒い何かの正体はうずくまった黒い猫だった。

「こんな所に野良猫なんて珍しい。おぉい、生きてるか」


黒猫に近付きながら声をかける。涼雅としては、声をかけることで黒猫が逃げていくと思って話しかける。が、黒猫は一向に動かない。まさか、と思い、黒猫に触れてみたが、微かに息をしていることが分かった。


「お前、随分弱ってるな」

涼雅は1度頭を掻き、黒猫を抱き上げた。

「とりあえず家に連行して、明日病院にでも連れて、行けるかな……」


無理矢理忘れた会社のことを思い出し、肩でため息をつく。

「ま、なんとかするか」


涼雅は家に黒猫を運びこみ、自分の布団をかけ、素早く電気ストーブを暖まるように配置し、電源をつける。


電子レンジに昨日買ったスーパーの半額弁当を温めながら、即席の湯たんぽを作るため、お湯を沸かす。携帯電話で猫の病院代がいくらなのか調べていると、電子レンジが温まったことを告げる音が鳴った。


「げ、こんなにかかるのか。まぁしょうがないか……」

病院代に驚きながら温まった弁当に手をつける。そして、しばらくすると、黒猫がいる方面から予期せぬ事が起きた。


「んぁー?何かいい匂いするなー」

「…………え?」

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