第二章 俺の青春は終わらない

プロローグ 俺の新生活が始まった

 今日は暖かい。白い息が吐きだされることもなく歩く道は久しぶりな気がする。

 雪も降っておらず、快晴とまではいかないまでも青い空は、清々しさなどの心理的効果をもたらす。


 そして、隣には関係の変わった幼馴染がいる。腕にきゅっと抱き着く姿は少し大人びた高校生カップルらしく、しかし恥じらいのせいか時々離されていく初々しさが見る者の頬を緩ませる。


「きょ、今日は晴れてよかったな」

「う、うん、気持ちいいね」

「……………………」

「…………………………」


 コミュニケーション能力の高いトップカースト群をもってしてもこの緊張感である、と言えば誤解を招きかねない。

 ここまでぎこちないのはこのカップルだからであって、全てのカップルに共通するわけではもちろんない。


「お前らまだそんなぎこちないのかよ」

「もう付き合って二週間くらい経つんじゃねえのか?」


 うるせえよ。二週間で緊張がほぐれるわけないだろ。こちとら十五年間くらい幼馴染やってたんだぞ?

 そんな言い訳をみっともなく垂れ流すわけにもいかず、好奇の視線にさらされながら可愛すぎて恥ずかしいんだよ、と返すことしかできない。


「うわ、出たまた惚気かよ! リア充爆発しろー!」


 速見のその一言で輪の中にどっと爆笑が生まれる。因みに輪が相当広がってしまっている、というのは言うまでもないことだろう。

 休日にまで遊ぶ仲ではなくとも学校でのみ話す友と言うのは絶対にいるものだ。俺の周りにはそう言った人たちが増えつつあった。


 付き合い始めたことで起こったこの変化はいい変化であると言えるだろう。友達が増えて悪いことなんてない。


「速見だってめっちゃモテてるじゃねえか」


 俺のその声に続いて椎名が羨ましいなあと声を上げ、周りの人間の誰かがいやお前もだろとツッコんでまた爆笑が生まれる。

 その流れを不思議にも、不快にも思わない。

 それが虚偽だとか、あるいは表面だけの欺瞞だとかは思わない。


 でも、一つだけ思うのは、それで何かを失ってしまうのは嫌だということ。

 生まれつつある軽薄な空気の中で、あるいは新しく生まれたカップルをいじったり、持て囃したりする中で、今まであった何かが失われていくのは嫌だということ。


 きっとこの空気は間違いじゃない。この空気はこの空気で楽しい人がいて、充実する人がいる。

 でも、その代わりに犠牲になる人間がいるというのを忘れてはならない。


 輪の中心で俺と共に囲まれる莉紗の表情は寂し気で、その視線は教室の隅に一人で佇む酒井結に向けられている。

 だからきっと、俺はこの空気を壊してでも、元にあったものを取り戻さなければならない。



 それが新生活の、第一歩だ。

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