第14話 俺は椎名に追い詰められる

 今日も莉紗は迎えに来なかった。


 長い長い一週間が幕を閉じて、新しい週が始まって。

 そして、もう今日は金曜日となっている。


 時の流れとは不思議なもので、日によって一日の長さが違って感じられたりする。

 それは何かが起こるか、あるいは何も起こらないかという点が最も大きく関わっているのかもしれない。


「なあ、最近様子おかしくない? 莉紗と喧嘩でもしてんの?」


 こうも長引くと、流石に周りの連中も気づき始めたようで、速見のように心配するのはまだいい方、喧嘩別れでもしたんじゃないかと邪推する者たちも現れた。

 まあ、そもそも付き合っていないのだが。


「いや、喧嘩してるわけじゃねえ。ただ……なんて言うんだろうな」


 形容しようにも言葉が思いつかないような、そんな関係。

 喧嘩はもちろんしていないし、仲が悪くなったわけでもない。何となく気不味くなっただけ。


「あ! あれか。お前が莉紗のおっぱいを揉んだからお互い気不味い的な」

「ま、まあそんな感じかも」


 実際は汽不味いという部分の20%ぐらいしか当てはまってないんだが、それで速見は納得したようだった。

 青春してるじゃねえかなんて言いながら背中をバンバン叩いてくる速見を視界に収めつつ、ふと数日を振り返る。


 昨日も一昨日も同じようなことを訊かれて、同じような誤魔化し方をして逃げてきた。今俺らの関係を知っているのは椎名だけだろう。

 椎名は何か理解したような様子だったが、正直、俺にも何が原因か分からない。ただ、莉紗の態度が今までよりも少し遠くなったように感じた。


「奏斗、ずっと誤魔化してないでいい加減解決しなよ」


 分かっている。解決しなきゃいけないなんてことは。それができたら苦労していないし、こんなに悩んでもいない。

 唇を噛んで、何もできない自分の無力さを呪った。


「奏斗はさ、何がいけなかったか分かってるの?」

「分からない……心当たりすら何もない」


 いつから態度が変わったかは分かる。パーティーの時はいつも通りだったが、その後に家に送り、次の朝から態度が変わった。

 原因は、そこにあるはずで、でも俺には何の心当たりもない。

 八方塞がりで解決のしようがない状態なのだ。


「本当に八方塞がりか?」


 すらっと心を読んでくるのはやめて欲しい。何もかもを見られている気がして不快な気分になる。


 椎名の問いの意味は何だろうか。そんなの考えなくても分かる。でも、なぜか目の前にあるその答えを見たくない。

 だからいつも通りに目を逸らして、別の方向を向いて、逃げることしかできない。


「できることは、あるんじゃないのか?」

「——っ!」


 でも、逸らした先の方向にも、椎名は現実を見せてくる。

 逃げ場を塞いで、徹底的に追い詰める。それが椎名の、やり方だから。

 今までもそうだった。だからきっとこれからもそうであり続けるのだろう。


 ————そうやって、人を救い続けるのだろう。

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