第12話 俺は何とか解決に導く
家に帰ると、そのままベッドに倒れこんだ。もう足を動かす気力すらないくらいに疲れ果てている。
風呂は明日の朝でいいだろう。取り敢えず今日は寝たい。
今までこんなにすぐに寝付けたことがあっただろうかと言うくらいあっという間に意識は闇の中に落ちていった。
◇
気づけば、ツグミやらガンやら、外から冬鳥の鳴き声が聞こえてくる。五感に訴えかけてくる寒さの中、唯一熱をもたらすのは陽光。
カーテンの隙間から差し込み、気持ちいいの到来を知らせてくる。
今日はよく寝付けたおかげで気分も体調もいい。これなら昼休みの件も上手くいきそうだ。
んっと伸びをし、洗面所で顔を洗えば今日も変わりない一日の始まり。
「それじゃあ行ってくる」
両親と中二の妹は既に出かけているので、俺が挨拶をするのは大学二年の姉。
容姿自体は整っていると思うが、気怠そうな雰囲気や伸び切ったパジャマ、半分くらい閉じた瞼が全てを台無しにしている。
俺とは正反対なタイプだ。ああ見えて頭はいいんだけどね。
国立の中学校に通う妹も含めて三人同時に受験なのが大変だったと母さんがぼやいていたが、
「いってらっしゃぁーい」
気の抜けた挨拶を頂いて学校へと足を運ぶ。
隣に誰もいないのが少し寂しい。いつもは莉紗が迎えに来てくれるんだけどなあ……
やっぱり何かあったのではないかと心配しつつぼーっと道を歩き、電車に十分ほど揺られて学校へ。
「よう奏斗。ちょっと今日元気なくねえか? 寝不足か?」
顔を覗き込みながら心配してくるのは親友の速見であってもやめて欲しい。何か隠していることまでバレそうで不安になる。
しかしまあ鬱陶しいとか直接言うのもあれなので、早めに返事を返しておくのがここでは無難な選択だろう。
「いや、ちょっとな。まあ、寝不足みたいなもんだ」
嘘をついていることが後ろめたく、少し視線を横にずらして答えた。これが椎名だったら全部見通されていただろう。
もしかするとあいつなら、何もしなくても異変に気付くかもしれない。
「なら今日の授業はゆっくり休めよ!」
悪戯っぽく笑う速見に軽く苦笑を返して教室へと向かう。
今日はしなければならないことがあるというのに、朝から嫌な滑り出しだった。よし、ここからは切り替えていかないとな。
普段の明るいキャラで教室の扉を開く。
いつもより明るくすることはなく、しかし暗くもならないように気を付ける。いい塩梅にできた。
おかげでクラスの人間はただ一人を除いて全員いつも通りだと感じてくれているようだ。やはり、椎名だけが、目を眇めていたが。
別に寝不足ではないので授業はいつも通りに受けれるか……と思ったがやっぱり無理だった。
原因は少し離れた席に座る莉紗だ。
いつもは朝から一緒に登校している。たまに朝食まで作ってくれたりするのだ。だというのに。
今日は、莉紗が迎えに来なかった。学校を休んだわけではなく、俺とは別で学校に登校していた。
それが寂しくて、取り残されたような感じがして、授業に集中できなかった。
「あっという間に昼休みが来ちまったな……」
今日の昼休み、つまり今から、俺はあいつに会いに行く。
廊下を歩き、一階に降りる。昨日とは違う方向へと廊下を曲がり、すぐの扉をノックした。
暫くして、はーいという声が返って来たのを確認し、扉をそろりと開ける。
「あの、突然すいません、凛会長」
彼女——凛は、昨日のひより、あるいは俺と同じような気不味そうな表情をした。
そんな彼女を無視し、勝手に用件を告げていく。
「今日の放課後の全校保護者会で俺に説明をさせてください」
「説明って、何の?」
まあ、その質問が来ることは予想済みなので、俺は凛が驚くであろうその言葉を、微笑みつつ伝える。
「いじめの件の、ですよ」
そう言って、俺は背後に連れてきた五人の男子生徒と、ひよりとを会長に見えるように立たせた。
五人の男子生徒は、いじめっ子たち。相当反省しているようで、今回の件への協力をお願いしたら、ぜひ、と食い気味にOKしてくれた。
あと、ひよりはまあ、可愛い女の子が一人いるとだいぶ違うからね。
「という訳で、許可していただけないでしょうか」
先生には会長の判断に任せるという言を頂いているので、後は凛の判断次第なのだが——
「本当にいいのかい? 私は君にとても悪いことをしたのだが」
そんな答えは予想済み。
「全部、分かってますから」
凛は驚いたような顔をした。まあ、そりゃそうか。それからやや困り顔を作って、いいよ、と言ってくれた。
滑り出しは絶不調だが、何とかこれは予定通りだ。
生徒会室を出て、六人と解散したとき——
「多分、君と莉紗は同じ悩みを抱えているんだよ」
いつからいたのか、全てを見透かすような瞳をした椎名に、声を掛けられた。
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