第11話 俺は何かを壊してしまった
楽しいパーティーはあっという間に終わってしまい、盛り上がり、火照った体に冬の夜風は心地よい。
ひよりが俺たちの輪に加わったことが少し嬉しくもあり、同時に喧々囂々としたパーティーの終了がどこか物悲しくもあり。
「今日はありがとね」
「ん? ああ、莉紗か」
終電を逃すまいともう全員帰ったものだとばかり思っていたが、そうか、莉紗ならば家も近いし、まだ居ても不思議ではない。
まだ頬がうっすらと赤く染まっている。王様ゲームでの一件がよほど恥ずかしかったのだろうか。
とは言いつつも、正直俺も死にそうになるくらい恥ずかしい。
「何で莉紗が礼なんて言うんだ?」
あまり心当たりが無い。
ひよりならまだしも、莉紗には最近何か感謝されるようなことをした覚えはないし、そもそもあまり話す余裕がなかった。
寧ろ少しくらい怒って然るべき……なんて思うのは自意識過剰か。
「あたし、最近あんま皆と喋れてなかったって言うかさ、ちょっと孤独感を感じてて、だから、その」
「今日のパーティーでたくさん話せて楽しかったってことか」
「うん、そう……」
俺の感じていたことはあながち間違っていなかったのかもしれない。
しかし、俺は特に莉紗に何かしてやったわけでもないし、パーティーを開こうと言い出したのが俺なだけだ。
そう莉紗に言うと、莉紗はふるふると首を横に振った。
「それは違うよ。あたし、昔っから奏斗に頼ってばっかだし、今日だって奏斗がいたからみんなと話せたんだもん」
「そうか……。莉紗は今でも、昔のままなのか」
俺と莉紗と椎名は幼馴染で、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。
最初のころは莉紗には手を焼いたものだ。まあ、手を焼いたとはいっても俺から関わりに行ったのだが。
と、懐かしみつつの発言すると、莉紗が肩をびくりと震わせた。
莉紗の眼には、深い哀しみの色が浮かんでいる。まるで迷子になった子供のような、そんな眼。
「どうかしたのか?」
「ううん……ちょっと寒いだけ」
そう言って困ったように笑う莉紗の表情は先程一瞬見せたものとは全く異なっていた。俺の気のせいだったのだろうか。
まあ、俺も体が冷えてきたところだ、そろそろ中に入ろう。
腕をさすっていたので俺の羽織っていたコートをかけてやった。ここから莉紗の家は少し歩かなければならないし、それに、寒そうにしているを見ているとこっちまで寒くなってくる。
「ありがと」
そう言ってはにかむと、俺の家の玄関に置かれた荷物を小走りで取りに行った。たたたっと軽快なタップと共に戻ってきた俺の隣に莉紗が並ぶと、二人で歩きだす。
夜道は静かで、二人の足音と微かな息遣いの音のみが聞こえてくる。不思議と気不味さのない沈黙の中、莉紗の家が見え始めた。
「送ってくれてありがと」
「いや、これくらい当然だよ」
白い息を吐きながら遠慮がちに礼を言ってきたので礼はいらないと返す。しかし、莉紗はそこから一歩も動かない。
「どうしたんだ? 具合でも悪いの——」
「あ、あのさっ!」
「おっ、おう」
俺の声を遮って、しかも突然大声を出すものだから少し怯んでしまった。
拳を握り締め、何かを決意した様子で紡がれた言葉は、しばらくの間をおいて続けられる。
「明日、昼休みにまた、喋れるかな」
夜であるのと、セミロングの髪に一部が隠されているのとで顔はよく見えないが、真っ赤であるのは何となく分かった。今日は赤くなり過ぎだ。やっぱり熱でもあるのではないだろうか。
っと、莉紗への返事もしなければいけない。
「残念ながら明日は無理だ。ちょっと大事な用事があってな」
「そっか。無理言ってごめんね、じゃあっ」
そうして、走り去っていってしまった。
家に入るときに照らされた横顔が、やけに寂しそうに感じられた。さっき見せた顔にも似ている。
だからだろうか、何かが壊れてしまったような、そんな気がしてならなかった。
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