第10話 俺は今度こそおっぱいを揉む

「ん……あん♡」

「あっ……やあっ♡」


 これは高校生でパーティーをするのならば必ず起こり得る事態である。

 今、柔らかそうな白く眩しい肌を晒す裸の女子と、芸術作品のようにしなやかな筋肉を晒す裸の男子を想像した思春期少年少女諸君に告ぐ。


 断じてである。

 残念ながらこれは君たちの想像する乱交パーティーではない! 健全な高校生男女の歓迎パーティーである!


「もお……んぁ……♡」

 

 ……大事なことだからもう一度言う。

 これは、断じて乱交パーティーではない!

 とは言ってみても、誰も信じやしないであろう。さっきから聞こえる喘ぎ声が何かが起こっていることを、少なくともただのパーティーではないと物語っているからな。

 仕方がない。思春期少年少女諸君! 説明するから耳の穴かっぽじって聞くんだぞ!


………………

…………

……


「なあ、ちょっといろいろ飽きてきたしよお、やらねえか?」


 パーティーを始めて数時間。もう完全に日は沈んでしまっていて、それどころか深夜である。

 今ここに集まっている全員が今日はパーティーで帰れないかもしれない、と親に連絡しているとはいえ、明日も学校があるのだから早く寝なければならないだろう。


 そう言う意図を込めた視線を速見に送ったが、速見は今日くらいはいいじゃねえかよ、と視線を返してきた。

 無垢ににっと笑いかけられてはそれを止めることなどできまい。

 明日は大して重要な授業もないしいいか、と溜息を吐き、苦笑する。


「で、あれって何をするんだ?」

「あはは、やっぱそういうとこに疎いよねえ、奏斗は」


 椎名に笑われてしまった。そういうのがどういうのかは分からないが、疎いとは失礼な。

 皆は分かっているのかと見回すと、全員が温かい眼差し、あるいは苦笑を向けてきていた。マジかよ皆分かってんのかよ。


「おいおい、高校生男女が集まってパーティーでやることって言ったら、あれしかねえだろ?」


 ま、まさか……温かいものを見る眼差しとは、そういうことなのか?

 今からするのは、乱交パーティ……じゃなくて。それは高校生男女が集まってやることじゃない。

 ただ、恋愛系であることは間違いないだろう。


「せーのっ!」


 この輪の中にすっかり馴染んだひよりがそう声を張り上げると。


「「「「「王様ゲームっ!」」」」」

「王様ゲーム、ねえ……」


 王様ゲーム。それは大学生が集まってやることだろ。

 とはいえ、彼ら彼女らの中では王様ゲームをするのは決定事項のようで、全員が目を爛々と輝かせている。皆怖い。

 俺がまたぞろ溜息と吐くと、それを許可と受け取ったらしく、やったーと喜んでいた。

 なぜ溜息が許可なんだ。普通は逆だろうに。解せぬ。


「最近のアプリは便利だからな……っと」


 速見がスマホをポチポチと弄りはじめ、一分ほどしてその画面をみんなに見せた。

 そこに表示されていたのは——


「王様ゲーム専用アプリ……?」


 俺の代わりに疑問を発したのは、結だ。不思議そうにこてりと首を傾けているのが可愛らしい。大人しいタイプであるのも相まって、小動物のようだ。

 その疑問に答えるのは、莉紗だ。


「つまり、王様ゲームで王様としての指示内容を決めるアプリ、ってことよね」

「やけに詳しいな」


 あまりにもつらつらと解説するので、思わずツッコんでしまった。

 しかし、俺のその反応が予想外だったのか、あるいは何か疚しいことでもあるのか、顔を一気にゆでだこのように真っ赤にした。

 何で女子ってこう、すぐに赤くなるんだろうな。


「べ、別に。ちょっっっとだけ奏……んんっ、皆と一緒にやってみたいなって思っただけで……」

「やっぱ莉紗はツンデレ属性だな……」


 俺が難問にぶち当たっている間に何か会話が行われていた気がしたが、よく聞こえなかった。

 重要なことかもしれないし、聞いとくか。


「よく聞こえなかった。もう一度頼む」

「奏斗、それは訊かないのが優しさだよ」

「? そうか……」


 よく分からないが、椎名に諭されてしまった。

 まあ、聞かなくていいってことは大して重要なことではないんだろう。なら、無理に訊く必要などないか。


「じゃあ、始めるぞー」


………………

…………

……


 と、つまりそういうことである。

 そうして、数回目に出たお題が、これであった。


『一番が三番、二番が六番の胸を揉む』


 俺が俺の番号を確認すると、一番だ。二番が速見で椎名は六番。こいつらボーイズラブかよ。

 ん? いや待てよ? ここにいる男子は三人で、二人は既にペア。ならば俺は。

 ギギギ、という音を立てそうな速度でゆっくりと首を持ち上げると。


 莉紗の顔がさっきよりも真っ赤になっていた。あれよりまだ赤くなんのか。

 なんて考える暇もなく。


「え、えええええええええええ⁉ 俺が、莉紗の胸を揉むの⁉」

「よかったな、奏斗。俺の分も、頼んだぞ……」


 遺言を残してオスにおっぱいを揉まれに行ったオスは置いておいて。

 まじかよ。


 と、そうして、今に至る。

 だから、乱交パーティーではない。


 しかし、今問題なのは。

 ひよりには若干劣るものの、極上の柔らかい果実に触れたはいい。まだラッキーで済む。しかし、それよりも。


「あーん、もうやめてえ」


 ふざけて声を上げる椎名も置いといて。


「やっ、奏斗、もうやめてっ……♡」


 涙目で本気で喘いでるこっちはマジでダメだろーーーーー‼‼

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