十話

「誰じゃ」


 扉を開けると、部屋の奥から声が聞こえて来た。

 しまったと思いつつ、見つかった以上は仕方ないので、警戒しながらも部屋の中へと入る。


「まさか人型の機械ロボットなのか!?」


 部屋にいるのは、白髪を生やした高齢の男性一人だけのようだ。

 その男性は、俺とリツのことを見ると驚いたようにそう言う。


人型の機械ロボット?」


 俺の隣にいるリツがそう聞き返した。


「ああ、お主たちが知らないのも無理はないの」


 俺は警戒を続けながらも、その男性の話を聞くことにする。


「まずは紹介からするかの。わしの名前は、山中と言う。一言で説明するなら、お主たちの生みの親ということになるのかね」


「生みの親? 一体何を言ってるんだ」


「それを説明するには、時間が必要になるな」


 山中と名乗った男性は、そう言うと椅子に腰をかけてから話し始めた。


「わしは科学者であり技術者であっての。ここの企業に雇われておる。そして、この企業が行なっているのは人工知能を使った実験なのじゃよ」


「人工......知能」


 俺には、山中が何を言いたいのか分からなかった。

 いや、分かりたくなかったのかもしれない。


 人工知能ならば、宇宙船プロトタイプでも一般化している技術である。

 医者がいない船内での医療、船内の温度調整、宇宙船にぶつかりそうな小惑星の感知、など多くが人の代わりに人工知能が管理している。


「さらに言うと、ここは地球じゃよ」


「「えっ!」」


 山中がさらっと言ったその言葉に、俺とリツは衝撃を受けた。

 地球は、遠い過去に起こった核戦争で滅んだはずだったからだ。

 人類が生き残っている可能性は、多く見積もってもないだろう。


「ど、どういうことだ? 地球は滅んだんじゃなかったのか」


「それも含めてこれから長い話をしようかの」


 そう言い、山中は話を続ける。


「この企業は、ある実験を行ったのじゃ。人工知能は人の心を持てるか、否かを。そして、その実験の為に用意したのは、何もない宇宙空間と宇宙船と作られたの歴史じゃ。」


「待て待て、それって......」


「ねぇタイチ、この人は何を言ってるの?」


 山中はこちらを見ながらも、そのまま話を続けた。


「人工知能たちには、暗く何もない宇宙空間で新天地を見つけるという目的を与え、何もない場所をただただ進ませ続けた。その舞台は、試作機と言う意味を込めて宇宙船プロトタイプと名付けたと聞いたの。」


「......」


「その宇宙船には、わしが開発した人工知能たちが置かれたんじゃ。だから、わしが君たちの生みの親と言うことになる。」


「そんな事信じられるか! 証拠はあるのか?」


 山中が次々と衝撃発言をしていく中で、俺は声を荒げる。

 そんな事があっていいはずがない。

 認めれば、俺たちの。いや、人類はこれまで無駄な事をしていた事になってしまう。


「うーん、そうじゃのう。お前たちに書かれているナンバーをよく見るのじゃよ。Ta1とR02、お主たちはタイチとリツじゃろう?」


「そんな......」


「......」


 隣にいるリツは、弱々しい声でそう言った。

 リツだけでなく、俺の名前も言い当てた現実に何も言い返せなかった。


「少し休憩した方が良さそうじゃな」


 山中はそう言うと、席から立ち上がる。


 ◇


「少しは落ち着いたかの」


 暫く時間が経ち、山中は席に座った。

 俺とリツの様子を見て大丈夫と判断したのか、どうやら会話を続けるみたいだ。


「はい......。信じるかは別として、話は続けてくれ」


 山中は、うんうんと首を上下に振り満足しているように見える。


「君たち二人をわしが作った事までは言ったの。だが、それだけではないんじゃ。わしが担当して作ったのは、宇宙船プロトタイプにいる全ての人工知能でな」


 俺たち二人を作ったと聞いた時から、他の人類もそうだろうとは思っていた。

 だけど、直接言われると心に来るものがある。

 それを抑えて話を聞く。


「目的は心を作るためと言ったが、それだけではない。人工知能は人間に対して従順であるのかを判断し、そうであるなら軍事に用いるつもりじゃったらしい。心を持たせるのは、自分で考えて行動させるためだと聞いた。」


「俺たちに二度同じ過ちを犯せって言いたいのか。最も、ここが地球なら核戦争は起きなかったかもしれないけど......」


 リツは、シャックのあまり言葉も出せないようだった。

 俺は無性に腹が立った。

 俺が夢を見て外の世界は、人類が繁栄出来る新天地だったはずである。


 それなのに、俺たちは外の世界の住民の都合だけで作られて、意味ない戦闘をさせれそうになっていたのが許せない。


「まぁ、聞きなさい。ある時、人工知能の人権に関する議論がされたのじゃ。そこで、人工知能が我々と同等の知能を有しているのなら、人権があるものとして判断するという結論が出された。」


「元々は人としての権利すら無かったってことか」


「そこはお主たちも同じであろう。宇宙船プロトタイプにも、人工知能はあるからの。」


 山中が言った一言に対して、何も言い返せなくなる。

 なぜなら、知ってしまったからだ。

 立場が違えば、俺たちも外の住民と変わらないのかだと......。


「君たちには選ぶ権利がある。このまま宇宙船の中で寿命を迎えるのか、外の世界で生きるのか。そして、よく考えるのじゃよ。」


 そう言うと山中は立ち上がり、奥の部屋へと俺とリツを誘導した。

 そこには、この世界に来た時に見た部屋と同じような部屋があった。


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