五話

 視界を埋め尽くすほどの光は、少しずつその光量を下げて行った。

 暫く経ってようやく目を開けらるようになったので、周囲を確認する。

 転移モードに移行したと言う割には、現状特に変わった様子もなく、眩しくなる前と変わらずカプセル型の機械の中にいる。


 どうしたもんかと考えていると、空気が勢いよく噴出される音が聞こえ、カプセル型の機械のフタが開いた。


「まさか機械が故障でもしていたのか?」


 転移した様子もなかったので、そんな気持ちになる。

 しかし、カプセル型の機械から出て外を見た所で息を呑む。

 そこは、宇宙船プロトタイプの管理棟にある管理室とは内装が違っていた。


「成功した......のか?」


 再度周囲の確認を行うと、壁にたくさんのモニターがあることは同じだが、そのモニターは居住区内の様子を映し出していた。

 居住区内の様子が映っていたので、宇宙船内なのと焦ったが、どうやら違うみたいだ。


 なぜなら、この部屋には大量の見たこともない機械が置かれていたからだ。

 その機械は、用途は分からないが人型をしている。

 大量に置かれた人型の機械を見ていると、部屋の端に置かれている破損している人型の機械が目に付いた。


 人型の機械が壊れているならゴミ捨て場に置けば良いのに、と気にはなったが考えた所で仕方がないと思った。

 それよりも、この場所が今まで夢にまで見てきた他の宇宙船や新天地である可能性を考えると興奮する。


「やっと来たんだ。男たちが言っていたのは嘘じゃなかったんだな」


 少なくとも管理室からの転移に成功したことを実感し、他の場所を早く見たいと思った。

 まずは、ここがどこで他の人類や知的生命体がいるのかを確認しなければ。


「ここがどこかはまだ分からないけど、やっと見れる外の世界なんだ。楽しまなきゃ」


 色々と感傷に浸りながら、室内を歩いて見て回る。

 破損している人型の機械には、なにやら固体ナンバーと思われるものが書かれてたが、破損していないものには書かれていないようだった。

 何が違うのだろうと考えながら、他に気になるものもなく部屋の探索を終える。


 そして、おそらくこの部屋の外へと繋がっていると思われる扉の方を見る。

 このままこの部屋にいても、何も分からないままだと思い扉に近づく。

 扉を触って驚いた。


「この扉、木で出来てるぞ!」


 宇宙船プロトタイプの扉は全て鉄やそれに近いもので作られていて、木で作られているものは一つもない。

 その理由は、宇宙船内にある木はあまり多くなく、あまり市場に出回らないからだ。


 この場所はやはり宇宙船内ではなく、違う場所なのだろうと改めて実感する。

 そして、この先に待っているであろう光景に考えながら扉を開けた。


 扉の先は、左右へと続く廊下が続いていた。

 俺は迷った時は右に行けばなんとかなるだろうと考えながら、右に続いている廊下を歩き出す。

 暫く廊下を歩き続け、突き当たりを曲がると男とバッタリ出くわした。


「お前、何者だ。所属はどこだ」


 男は驚愕の表情を浮かべ、すぐに銃を構えて、俺のことを警戒しながら話しかけて来た。

 なんと説明して良いのか迷っていると、男はより警戒心を強め始める。


「俺は......」


 その瞬間、銃が連続して撃たれた。

 廊下中に響き渡る轟音に、耳を傷めながら急に銃を撃ったことに驚く。

 俺から血は出ていないようではあったが、膝が折れて廊下へと落ち、その勢いのまま胸を打つ。


「こちら......、総務課に繋いでくれ。どうやら侵入者が来たみたいだ。対処はしたが、その後どうすれば良いのか指示を聞きたい」


 激しい銃音がしたせいで耳が聞こえづらくなっている中、男がどこかに連絡している声が聞こえてくる。


「こちら総務課、要件は聞いている。固体ナンバーを調べた後に、例の部屋にでも放り込んでおいてくれ。その後の処理はこちらで行う」


「了解です」


 男が電話している相手と思われる声がはっきりと聞こえてくる。

 男は指示に短く答え、連絡を切った。

 そして俺の方に体を向き直す。


「まだ意識があったのか」


 そう言うと、再び銃を俺に向けて発砲する。

 何発も連続で撃たれたことで、限界を迎えたらしく意識が朦朧として来た。


「よっこらせっと」


 男はそう言うと、俺の体を担いで廊下を歩き出す。

 行き先は分からないが、男が居た方ではなく俺が来た道の方を進んでいるようだった。


 やっとその世界に来れたのに、こんな所で死んでしまうことに悔しくなる。

 外の世界を見ることなく、他の人類の危険性を宇宙船に伝えることも出来ず、ここ死ぬのが悔しい。

 後悔の念ばかりが出てきて、もう意識を保つのも無理だと思った時、良かったこともあったと思い出す。


 リツを連れて来ないで良かった——。

 そこで俺は意識を失い、視界が暗転した。

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