四話

「こんなものかな」


 作戦決行日である前日。

 俺は、自室で最終チェックをする為に考える。

 明日、管理棟に入る時に必要と思われる道具類はこれだ。


 目と鼻と口の場所だけ空いているマスクと手袋、いざという時のスタンガン、そしてカードキー。

 必要最低限にした理由は、購入記録などから足が付かないようにするためだ。

 俺の侵入がバレた時に、リツや他の人に迷惑がかかるリスクを減らせる。


 色々と用意を進めていると、扉をノックする音が聞こえた。

 この家の住民は俺とリツしかいなく、ノックしているのもリツだろう。


「どうしたんだ」


「ちょっとね。」


 部屋に入って来たのは、やはりリツだった。

 リツは風呂に入った後なのか、髪が濡れている状態で良い香りが部屋の中に広がる。

 顔を見ると、暗い顔をしている様子だ。


「タイチ、本当に行くの? 今ならまだ引き返せるよ」


「既に決めたことだよ。俺だけ外の世界を見るのがリツに申し訳ないよ」


 リツが暗い顔をしていたので、少しでも場を和ませようと笑いながら言う。

 管理棟に無断で入るんだ、無事に戻って来られるなんて都合の良いことは思っていない。

 リツもそれを分かっていて、質問をしてきていた。


「そうだよね。タイチは昔から外の世界に憧れていたもんね」


 リツは悲しそうにそう言った。

 俺とリツは昔からずっと一緒に居た仲だ、何か思う所があるのだろう。


「リツは本当に行かなくていいのか? お前も俺と同じくらい外を見たがっていたじゃないか」


「見たいよ、見たいけど——。ううん、なんでもない。私はいいの」


 最後になるかもしれないから、リツに再度一緒に行かないか聞いてみた。

 リツは何か言いたそうにしていたが、それでも答えは変わらない。


 昔から同じ夢を目指して来た仲だったので、同じ景色を見れないのはとても残念だと感じる。

 一人で見る景色よりも、二人で見る景色は何倍にも輝いてる見えるだろう。


「本当に気を付けてね......」


 リツはそれだけを言うと、部屋から出て行った。

 風呂上がりの髪の毛で濡れたのか、床に水滴が落ちてるのが目に付いた。


 ◇


 翌朝、朝早くから起きて計画の再確認を行なった。

 正午に近い時間になると部屋から出て、管理棟へと続く閉ざされた扉の前まで行く。

 そして、カードキーを使って管理棟の中へと入る。


 これまでは想定した通りに、人と遭遇することもなく来れた。

 管理棟の中は、一本道が続いていて所々に扉があるようだ。

 主な作りについては、居住区棟と違いもなく扉に部屋の名前が書いてあったので、分かりやすい。


 暫く真っ直ぐ続いている廊下を歩き続け、目的地である管理室と書かれた部屋の前へと付いた。

 ここまでの道のりは、監視も無ければ人の影すら見かけることは無かった。

 管理棟内のミーティングが行われている状況だが、なんだか不気味にすら思える。

 まるで、誘っているかのような印象すら感じた。


 部屋の中に人がいる危険を回避する為に、扉に耳を付けて内部の様子を伺う。

 部屋の中から物音はせず、中は安全だと知ることが出来た。

 俺は、扉を開けて中へと入る。


 室内の様子は、よく分からない機器が多く置かれていたり、壁にはモニターがたくさん設置されているようだ。

 部屋の中央には、人が入って横になれるくらいの大きさのカプセル型の機械が置かれている。

 どうやらこの機械が外へと繋がっているのだと、確信はないがそう感じた。


「これを使うのか......」


 不安と焦りから、生唾を飲み込む。

 これを使えば、ずっと夢見て来た外の世界を知ることが出来るかもしれない。

 だけど、もう二度とリツには会えなくなるかもしれない、戻ることが出来ないかもしれないと思うと手が震えてくる。


 だがそれでも、それでも外の世界を知りたい。

 人類が宇宙へと進出して、目的の無い旅の中で得たものはなんだ。

 何も無いじゃないか、俺は夢も希望も無い中で死ななくなんかない。


 今一度、覚悟を決めて機械へと向き合う。

 使い方は男が言っていた通りなら、機械に入れば後は自動操作だ。

 俺は、カプセル型の機械フタを開けて中に入って横になる。


『生体反応確認。個体識別番号を確認、操作権利がある者と判定します』


 すると、急に機械音声と思われる男とも女とも言えないような声が聞こえてくる。

 何を言ったのかよく分からないが、自動操作は問題なく作動したことは理解出来た。

 数秒後、カプセル型の機械ののフタが閉まった。


『自動操作を開始します。そのまま動かずにじっとして下さい』


 音声の言う通りに動かずに待っていると、頭上に緑色の光が出現した。

 その光は、頭の先からゆっくりと足先まで移動する。

 まるで、体の中をスキャンしているかのようだった。


『異常なし。これより、転移モードへと移行します。そのまま大人しくしていて下さい』


 何がなんだか分からなかったが、言われた通りに大人しくしておく。

 すると、次第にカプセル型の機械の中が目を開けていられないほど眩しい光に包まれる。

 俺はたまらず目を閉じた。


『転移先の指定がないので、登録済み地点に自動選択されました。お困りの際には、ヘルプと言うことで返答することが出来ます。それでは、お気を付けて』


 目を開けられないほどの光量の中、機械の音声だけが聞こえてきた。

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