三話

「だ〜から、俺は聞いたんだってば」


「何をどこで聞いたのよ、タイチ」


 宇宙船プロトタイプの居住区棟にある、俺たちの自宅で会話をする。

 話しているのは、この船内で唯一の同期であり小さい頃から共同生活を送ったいるリツだ。


 なんでも、リツとは産まれた時から一緒にいたと言うのだから、かなり長い付き合いだ。

 リツは、いつも手帳を持ち歩き日々の行動を記録している変な奴だが、いい奴でもある。


「この宇宙空間プロトタイプには、大きな秘密があるんだ」


 昨日の夜、男たちが会話していた内容を伝え、気になった点を伝えた。

 伝えたのは、リツも俺と同じく外の世界を見たいと思う同志でもあるからだ。


「ねぇタイチ、この事は他の誰にも伝えてないでしょうね!」


「そんなわけないだろ、信頼してるリツ以外にはとてもじゃないけど言えないよ」


 リツはやけに真剣な表情で、腕を胸の前に組みと少しずつ詰め寄って来た。

 普段であればソファの上で横になりながら話を聞き流すのに、今日のリツは何か違ったあるように見えた。


「仮にタイチの言うように、秘密があったとしてどうするつもりなのよ。」


「俺は他の世界があるなら行ってみたい。このままだと何も変わらない気がするんだ。出来ればお前も」


 途中まで言いかけた所で、リツが割って入ってきた。


「バカじゃないのタイチ。管理棟なんかに無断で入ったら何をされるか分からないわ。規律を守るために記憶を消されるかもしれないわよ」


「それは流石にないだろうリツ。記憶消去なんて聞いたことがないぞ。」


 真剣な表情をしているリツに対して、笑いながら返す。

 記憶消去なんて人類が地球にいた頃にも、現在でも不可能とされている。

 そんなことを言い出すなんて、リツの奴はやはり変わっているな。


「うん......そうよね。とにかく、気持ちの問題よ。何が起こるか分からないってことよ!」


 リツは少し考え事をしている様子だった。


「危険があることは知っているさ。それでも、それでも俺は外の世界を。他の人類を見てみたいんだ。リツならこの気持ちは分かるはずだ!」


 リツと俺は小さい頃からずっと同じ空間で育って来た仲だからこそ、互いの気持ちを良く知っている。

 同じ本を読み、外の世界の素晴らしさを、地球と言う惑星の偉大さを知った。

 互いにいつか行ってみたいと夢見た仲なのだ。


「タイチの気持ちは分かるけど......。でも......」


 リツは肩ほどまである髪の毛を指でくるくると回しながら、何かを言いたげにしているようだった。

 それが何かは分からなかったが、リツならこの話に乗ってくらと思っていたので、意外に感じる。


「そもそも管理棟へはどうやって入るつもりなのよ。あそこに入れるのは、居住区棟でも高位の人だけなのよ」


「なぁリツ、これなんだと思う?」


 俺はニヤリと笑いながら、ポケットの中に手を伸ばしてある物を取り出した。

 それは、管理棟前で拾ったあのカードキーだ。


「ちょっ!? なんだあんたがそんな物を持ってるのよ!」


「昨日の夜に偶然拾ったんだ」


 昨日の夜にカードキーを拾った経緯と、持ち帰った理由についても伝える。

 そして、どちらにせよ危ないからこそ、外に行ってみたいと考えたことも。


「タイチが本気なら止めないわ。何があっても私はタイチの味方だから安心してよ」


「リツ、ありがとう。リツは外の世界には一緒に行かないのか?」


「その件なんだけど、私は少し用事があるからしばらく忙しくなるのよ」


「そうか、それなら仕方がない。土産話でも期待していてくれ」


「うん、本当に気を付けてね......」


 リツは、何かを考えている様子だったが、用事があるのなら仕方がない。

 俺一人でも計画を立てて、外の世界を見に行くことにするか。


 リツとの会話を終え、自室へと戻る。

 リツと一緒に行けないのは残念だけど、一人でも見に行くことは決定事項だ。

 それを踏まえて計画について考える。


「問題は、いつ行くべきか」


 カードキーを入手したと言っても、そのまま管理棟に入るのはダメだ。

 普段の管理棟には、警備なものがいて近付いただけでも警告される危険がある。

 仮に昨日の夜みたいに無事に入れたとしても、中で見つかる可能性は高いだろう。


「あっ」


 一つの可能性を見つけた。

 宇宙船プロトタイプでは、週に一度金曜日に管理棟内のミーティングが行われるらしい。

 しかも管理棟に入れるものは全員参加で、場所も居住区内の一部屋を使っていると聞いた。


 その日ならば、他の日よりも可能はあるだろう。

 問題は警備状況だが、管理棟に入れるもの全員参加なら、人がいないこともありえる。

 元より危険な状況ならば、賭けに出るしかないか。


 手段は手に入れた。

 計画も立てた。

 後は、少しばかりの勇気と実践をするだけだ。


 うまく行く保証はないし、成功したからと言ってその後どうなるかも分からない。

 むしろ、無事に帰って来られる可能性の方が少ないと言えるだろう。


 それでも、俺は外の世界を見に行くために決意を固める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る