第14話 むしゃくしゃしたから駅前散歩してみたら・・

新海教授と部屋の前で話をし、別れた後、自分の部屋のドアに背中を寄りかけて少し時間がたった。


八木教授の頭の中で、新海教授に対するイライラが止まらなかった。


かなり久しぶりに、八木教授は夕方から外に出た。


夕日が出ていた。


夕日を見たのなんていつぶりだろうか。


どこに行くという目的などなかった。


ただ、部屋に籠っていても、新海教授から言われたことに対するイライラが消えなかったから


ただ、目的もなく、ふらついていた


駅前の通り


前に見た時よりもかなり風景が変わっていた


そりゃそうか。


前まで当たり前のように見ていて気にもしなかった風景だったけど


自分が部屋に籠ってどのくらいの時が経っていただろう


風景なんて変わる


例え、自分の時が止まっていても


周りの時間は動いている


変わってなかったのは自分だけだったのかもしれない


駅前の通りに小汚い恰好をしたおじさんが座り込んでいた


八木教授がそのおじさんの前を通り過ぎようとした時


おじさんに声を掛けられた


おじさん「200円くれたら当ててあげるよ」


八木教授はその声を聞き、立ち止まった。


八木教授は、おじさんの方を見ないで呟いた。


八木教授「それが、あんたがやっていたことの結末か?」


おじさん「・・・」


八木教授「それがあんたがやってきたことの結末かって聞いてんだよ!?糞おやじ!?」


八木教授は、おじさんのほうを向き、怒りを込めて叫んだ。


おじさん「・・・・博隆(ひろたか)久しぶりだな・・・」


八木教授「糞おやじ、あんたには、色々聞きたいことがある。俺と母さんを捨ててどこに行ってたんだよ!?」


八木教授は拳を強く握りしめる


おじさん「・・・」


八木教授「俺は、あんたの言うとおりに、マシーンのように勉強した。いや、させられた。友達とも遊べず、ただ勉強だけしかさせられなかった。あんたと話した会話なんて、勉強しろ、東大に入れくらいしか覚えてない。あんたが嫌いだった。あんたの言いなりのまま、東大に入った。東大になんで入らなきゃいけないのかも分からず。東大に合格して、もう、受験勉強しなくていいんだって解放されたらあんだけずっとしてきた受験勉強の知識なんて全部記憶から飛んだよ。東大に入って、合格通知持ってあんたに自慢してやろうと家に帰ったらさ、泣いてる母さんしかいなくて、あんたはいなくなってた。」


八木教授は怒りに震えながら話を続ける。


八木教授「あんたの名前が嫌すぎて、あんたが居なくなってから母さんの名字に変えたし、正直勉強が嫌いになったよ。だからさ、俺と同じ境遇の人間を作ってはいけないという気持ちから、東大卒業してテンダー会に入ってあんたの勉強をマシーンのようにやらせてる教育法を完全に否定するために、なんの為に勉強するのか?の本質を理解させながら、楽しく勉強する教育法を俺はテンダー会で提案してきた。そしたらさ、テンダー会から東大合格プロジェクトみたいなのをどちらに任せるかって話をされてさ、もう一人の任されようとしたやつがあんたの教育法と全く同じような奴でさ。だから、俺はそいつに勝って俺の教育法が正しい事を見せつければ、有名になって、どっかに消えたあんたに・・・あんたの教育法が間違えてると伝えようとしてた・・・だけどさ。一人の子供の人生を自分のエゴで潰した末路が今のあんたかよ・・・」


八木教授の目から涙が溢れ出してきた。


おじさん「・・・・博隆、本当にすまない」


八木教授「謝んなよ!!!なんで今更謝ってくんだよ!!謝るなら、そんな事してんじゃねーよ!!」


おじさん「本当にすまない・・・」


おじさんは、八木教授に一枚の宝くじのチケットを渡した。


おじさん「せめてもの報いだ。当選は今日の夜発表だ。答えは自分で確かめてくれ」


八木教授はおじさんの手から、力強く宝くじのチケットを奪い取り


八木教授「何がせめてもの報いだ・・・俺は、あんたの教育法が間違ってる事を絶対あんたに証明してみせつけてやるよ」


そう言って八木教授は、おじさんの前から立ち去った。


八木教授が立ち去った後、おじさんは一人無言で座り込み、一粒の涙を流した。


おじさんのもとに、一人の初老の男が近づいてきた。


初老の男は、おじさんに話しかけた。


「お疲れ様です。真田名誉会長。どうです?テンダー会の実験プロジェクト、200円おじさん実験の成果は」


おじさんは、初老の男に返事を返す。


真田名誉会長「金田名誉教授か。実験の結果としては、私みたいな権力を持っている人が小汚いホームレスみたいな恰好をして、道端に通る人に声を掛けると大体がシカトされるか蔑んだ目で見られるかな。まさしく、人は見た目で判断するの証明かな。まあ、たまに優しい人もいるがな」


金田名誉教授「それは、それは。あ!会長報告なんですけど!実は、八木教授と新海教授のテンダー会きっての特大プロジェクトが動き出しますよ!どちらの教育法が正しいのかの証明合戦を世論に問う!的なねー」


真田名誉会長「どちらが正しいのかねー。金田名誉教授はどっちだと思う?」


金田名誉教授「さあ。どちらですかねー。まあ、結果は彼らが証明してくれると思いますよ!」


真田名誉会長「そうか・・・。私は、明日まで、この200円おじさん実験をやって終わりにするよ。」


真田名誉会長はそう言って夕日に目をやった。


つづく

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