第2話 「伝わってるよ」は魔法の呪文

 旦那様のことは好きすぎるぐらい大好きなのだけれど、いざ言葉にしようとするとこれがなかなか言えない。

 どうしても照れが入ってしまって、何の混じり気もなく純粋に「好き」という一言が出てこないのだ。

 でも言えずにいたらいたで、自分の中で感情が飽和してしまってある時突然爆発する。

 これ以上言わずに過ごしたら、相手への愛情が薄れたように思われるんじゃないか。

 こんなにもこんなにも好きな気持ちを抱えているのに、当の本人にはそこまで伝わっていないんじゃないかと。

 普通は相手からの言葉がなければ不安になるというタイプが多いと思うのだけれど、我が家の場合は全くもって逆である。

 愛情がもらえないことより(もとよりそんなことはあり得ないのだけれど)、愛情が届かないことの方が怖いのだ。


 だから、溜まりに溜まって爆発した時の威力は計り知れない。

 感極まって涙が出ることすらある。

 自分の感情を十全に表現できないことにもどかしさを覚えながら、それでも知ってもらおうと少ない語彙力を駆使する。

 そしてその度に、旦那様は決まってこう言うのだ。


「伝わってるよ」と。


 頭を撫でながら、抱き締めながら、あるいは背中を優しく叩いてあやしながら、「知ってるよ。伝わってるよ」と応えてくれる。

 落ち着いた声が耳に響いて、ああ、自分の気持ちはきちんと旦那様に届いたんだなと嬉しくなる。

 妻にとって、この一言は他のどんな言葉よりも効果的で一種の安定剤となっている。

 だから思う。

 これ以上の魔法の呪文はないだろうと。

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