第2話 出会う
それからまた年月がいくばくか経過し、勝にいちゃんのあとを追った訳じゃないけれども、僕は私立TD高校の一員になれた。初日、初めてのことばかりで緊張していた僕の前に、彼女が姿を見せる。
同じクラスの女子、
一学期最初の席順は機械的に決められることになっており、廊下側の列前方から五十音順に座っていく。奇数列が男子で、偶数列が女子だ。
偶然にも、僕と川戸の席はすぐ近くになった。隣り合わせではないが、その気になればいつでも彼女の顔が見える位置関係に、胸が詰まるような予感がした。
名前を呼ばれた者がその場で立ち、簡単な自己紹介をしていく。
川戸はそれまでずっと寡黙で、どちらかと言えば暗い雰囲気を醸し出していたのだけれども、自己紹介の段になると変化を見せた。雑技の変面のような素早さで、落ち着いた表情から明るい笑顔に転じ、そのままよどみなく自己紹介を終えた。
一発で彼女のことが気になった奴、一目惚れした奴は多分、大勢いただろう。
僕は……少なくとも“一目”惚れではないな、うん。
彼女と話す機会は多少あったものの、最も肝心なことは聞けていない。当たり前だ。あの写真集のことを、高校生の女子に聞ける訳がない。
気になってたまらない僕はクラス名簿を見て、できる限りの情報を得ようと試みた。名簿と言っても、昔々の電話連絡網なんて物はないから、学校側が保管している資料を見ることになる。問題はその方法である。
ワークステーションに全校生徒のデータが保存されているのは分かったが、生徒用のパソコン端末からはアクセスできないし、たとえできても閲覧すれば記録が残る。教師用の端末を使うなんて、もってのほかだ。
ところが、TD高校には旧い体質が残っているらしく、電子的な保存だけでは不安なのか、重要なデータはプリントアウトされた紙資料の状態でも保管されていることが判明した。職員室のどこにその手の資料が仕舞われているのかも、じきに把握できた。そこから周りの目を盗んで、川戸の個人情報“閲覧”に成功するまで、一ヶ月以上掛かった。
苦労した甲斐あって、詳しい家族構成および職業、住所と電話番号が入手できた。
あとはこれをどう活用して、写真集の件まで持って行くかだが。
* *
川戸
娘のクラスの副担任だと気付き、つい苦笑が漏れる。入学式の際に挨拶までしたのは間違いないのに、担任のインパクトがあまりに強くて、副担任の若い先生のことはほとんど忘れかけていた。娘が言うには、いい先生だけどこっちから話し掛けないと何にも言ってくれないとこぼしていたから、やはり存在感はあまりない人なんだろう。
「今開けます。どうぞ」
副担任を招き入れつつ、ちょっとした不安に駆られもする。高校でも家庭訪問なんてあるのかしら。あるとしたって、事前の予告はなかったし、副担任ではなく担任が来るのが普通じゃないの? だったら、この訪問はイレギュラーなことで、娘が何かしでかしたのかもしれない……。
副担任は具体的な説明はまだせずに、玄関先で切り出した。
「
「はい。前もっておっしゃってくれていれば、引き留めておきましたのに。あっ、それとも娘が連絡事項があったのに、忘れて外出してしまった?」
だったら申し訳ないと頭を下げかける唯織に、副担任は「いえ、そういうことはありません」と首を左右に振った。
「当人のいないところの方が話しやすいと思い、こうして訪ねさせていただいたので、留守の方が都合がいいです」
「はあ……何か学校でありましたか」
「大まかに言うと、異性関係のことで。あ、深刻な話じゃないんです」
「でも」
顔色が変わるのが自分でも想像できた唯織。こんなところで済ませる話じゃないと察して、先生に対して上がってくれるように言った。
応接間に通し、手早くお茶を準備して出すと、ようやく話を聞ける態勢になる。
「そんな不安そうな顔をされなくても大丈夫です。これは真優さんではなく、強いて言えば学校側の問題なので」
「一体何なんでしょう?」
「お母さんを前にして言うのも何ですが、お嬢さんはお母さんに似ておきれいです」
「?」
「なので、周りの男子が放っておかないというか、要はお持てになる」
「誰かと付き合うつもりが出来たなら、隠さずに話してとは言っているのですが……」
「いや、誰かと付き合っているとかでもなくてですね。すみません、こういう役目、初めてなものですから、慣れていなくて。担任の
続く
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