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では、なぜそんな特殊な場所にルナはともかくサンがいるのかというと、それはサンが自分の実家の力を持ってそれができるように『お願い』をしたからだった。
サンはこの月の開発プロジェクト、別名『月の楽園』計画の参加国の一つである、小国だけど、立派な一つの国の本物の『お姫さま』だったのである。(まあ、簡単に言うとスポンサーの一人だった)だから、「ルナのいる第一研究所にしばらくの間、二人だけで滞在させてください」と言う無茶なお願いが、(結構時間はかかったけど)正式な依頼として通ったのだった。
ルナとサンは同じ国に生まれた、同じ同郷の幼いころからの親友同士だった。
二人とも、サンの国の人の特徴である空のように、あるいは海のように青い瞳ときらきらと輝くような金色の髪をしていた。(ルナは髪が短くて、銀色のメガネをかけている。サンは髪が長くて、いつもその美しい手に白い手袋をしている、と言う特徴があった)
「月に都市ができたら、ルナはその都市に住むの?」月の真っ暗な空(それは宇宙そのものだった。まあ、当たり前だけど……)を見ながらサンは言った。
その真っ暗な空の中には青色の星が浮いている。それはつい数日前までサンがいた地球の姿だった。
月からみる地球は孤独で、(最初はもちろん綺麗だと思って感動したのだけど)その青色はまるで誰かが(地球、なのかな?)泣いているように見えた。(大きな涙の粒のようだった)
「うん。そうなると思う」小さな声で、ルナは言う。
「じゃあ、そうしたら、もう地球には帰ってこないんだ」ルナを見て、サンは言う。
「……うん。たぶん」
銀色の細いメガネのフレームを触りながら、ルナが言う。
「地球が恋しくなったりしないの?」サンは言う。
「しないよ。別にどこにいても同じだもの。私は、私。地球とか、月とか、あるは火星とか、金星とか、木星とか、あるいは土星でも、小さな小惑星の上でも、もっと遠い宇宙の果てでも、別にどこに居ようとも、私は、なにも変わらない」ルナは言う。
それはいかにも、ルナらしい意見だとサンは思った。(そしてルナはきっと、本当にその通りなのだろうと思った。私のように強がりではなくて)
「じゃあ私たち、離れ離れになっちゃうね」サンは言う。
私は地球。ルナは月。
遠いところに二人は離れ離れになって、暮らしていくことになってしまう。
……もう、これまでのように学園の中で自然と毎日、こうしてルナと顔を合わせることもできなくなってしまうのだ。(今日みたいなことはもうできない。私には、国の王族としての務めがある。それを放棄するほど、私はまだ、自分自身に失望してはいない。まだ私は立派なプリンセスになれると、自分のことを信じているんだ)
それがサンはすごく寂しかった。(ルナはそうは見えなかったけど……)
「サン、ありがとうね」半円形のガラスの通路の上に立ち止まっているサンを見て、同じように立ち止まったルナが言う。
「なにが?」サンは言う。
「私に、月まで会いに来てくれて」久しぶりに、にっこりと笑ってルナが言った。(その笑顔は学園で見たルナの笑顔そっくりだった)
そのルナの笑顔を見て、サンはその顔を赤くした。(苦労して、月まできて本当によかったと思った。その笑顔が見たくて、サンは月までやってきたのだった。遠い、本当に遠い距離を、宇宙船に乗って、空を飛んで移動をして。私はルナのいる場所までやってきたんだ。大気を超えて。重力を抜けて……。私はあなたに会うためにここにきた。……ただ、本当にそれだけのために。私は……)
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