第5話

 全ては龍騎様と父上であられる龍蔵様が、私を長州の手先から救ってくださった結果なのです。

 日本中の評判となり、江戸っ子や薩州閥から莫大な寄付が櫻井家に集まりました。

 無駄使いしなければ、龍騎様の弟妹が義務教育どころか、高等教育を終えられるまで十分生活できる金額だそうです。


 櫻井家の方々が仰るには、父上様から受けた御恩の御陰だそうです。

 全ては父上様が龍騎様を近衛騎兵に引き抜いてくれた御陰だと、櫻井家の方々は申してくれます。

 受けた御恩を返すのは、会津人として当然の事だそうです。

 御恩と御奉公については、私も父上様や大叔父様達から教えられています。


 だから遠慮などはしない事にしました。

 一緒に勉強する龍騎様の妹達は、私の唯一の学友です。

 今は主人と使用人と言う垣根があります。

 ですが、いずれ義理とは言え姉妹となるのです。

 今から仲良くするのは当然です。


 ですが、龍騎様の弟達とは一緒に勉強するわけには参りません。

 男女七歳にして席を同じゅうせずと言う諺もあります。

 将来義理の弟になるからこそ、男女の事はキッチリと分けないといけません。

 それに龍騎様の弟・虎男殿は、龍蔵様から厳しい訓練を課せられています。


 涼華家の書生として、私の護衛ができなければいけないそうです。

 虎男殿が屋敷に来たのが十五歳の時でした。

 櫻井家が貧困から抜け出すのが遅かった事で、虎男殿は勉学の機会を失っていました。

 ですが、努力次第でどうにかなる事は、龍騎様が証明されておられます。


 屋敷の来られてからは勉学と鍛錬に励まれて、龍騎様と同じように、十七歳で陸軍に志願されました。

 龍騎様と同じように、職業軍人として演習に励むと同時に、陸軍士官学校に合格すべく、兵営で寝る間も惜しんで勉学に励んでいるそうです。


 龍騎様の妹・花殿は私より年長で、龍騎様より二歳年下です。

 そろそろ結婚相手を探す年齢なのですが、屋敷に奉公していては難しいです。

 会津の伝手で探すと、貧民になってしまうので、父上様が陸軍軍人から探して下さるそうです。


 父上様が安心して紹介できる相手。

 元会津士族の櫻井家が娘を嫁がせる事のできる陸軍将校。

 長州系の陸軍軍人は排除されます。

 父上様の部下で、龍騎様の上官である近衛騎兵の将校団か、近衛師団の少壮将校から選ばれることになります。


 そんな事が色々ありましたが、龍騎様は陸軍士官学校を首席で卒業されました。

 首席以下の優等卒業生には、恩賜品の銀時計が下賜されます。

 いわゆる「恩賜の銀時計」ですが、「御賜」の文字が刻印されています。

 父上様や、近衛騎兵連隊の面目は保たれました。


 士官学校を卒業すると曹長に進級し、見習士官となって原隊に復帰します。

 近衛騎兵連隊に復帰するのです。

 龍騎様は半年ほど見習士官として演習に参加され、将校団の推薦を受けて少尉に任官されました。


 これでようやく積極的に龍騎様にアプローチできます!

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