礼服猫はキューピッド
ラフラン家の住所は聞いており、それはシド家の近所だった。
途中シドの話を聞き、考えを巡らせながら歩いているとすぐにラフランの家の前についた。ラフランの家は立派な三階建てで、玄関ドアもなんだか重厚でお洒落だった。最近だと甲冑女アメリの家を
シドとアメリは近所の知り合いで、普段あまり話す機会もなかったらしいが、まったくの他人というわけでもない、そんな間柄らしかった。
「――そしたらな、悪いんやけどノックしてくれへん? ワシ、手が柔らかくてノックできんのや」
「あ、でも……はい」
シドが観念したように背伸びしてドアノッカーを数回叩くと、しばらくして家の中からトタトタ歩く音がしてきた。タキシードはその足音で次にドアをあけるであろう人物を特定した。
「――今からラフラン本人が出てくるから、ぼうずがその人形渡しや」
シドはラベンダー香る
「その
「え、でも、僕……」
「ええねん、ええねん。実際、そうやしな」
ガチャリと音がして、ドアが開いた。
「――あ」
まずシドの顔を見てラフランが驚き、次いで足元のタキシードと目が合ってもう一度驚いた。
「ラフラン、見つけたで。そら――」
「あ、あの。これ……」
タキシードの目配せに押され、シドがおずおずと
「ラフランちゃん……僕、昨日渡そうと思って、でも……ごめんね」
「シドが、見つけてくれたの?」
シドがちらりとタキシードを見てから、頷いた。
「――ありがとう!」
ラフランがそう言ってシドを抱きしめ、家の奥からラフランの両親も出てきたところで、タキシードはこっそり街の方に去った。
シドは、
だが妙だ。タキシードは
お祭りに行くのに、わざわざそんなに大事な人形をラフランが持ち出した事自体が変だし、あんなもの、一体どのタイミングで落とすのか。
聞けば、シドは事前にラフランにお祭りに誘われていたそうだ。シドが待ち合わせ時刻に、待ち合わせ場所に行くと、そこにラフランはいなかった。代わりに
――ラフランが仕掛けた罠だ。
シドに人形を持って来させ、彼をラフランの窮地を救ったヒーローに仕立て上げて、両親の覚えを良くさせる。家柄の差を、早いうちから埋めにいく腹づもりだったのだろう。ラフランが夜に泣いていたのは
――
特にラフランのやり口は、今までタキシードが見てきた恋の駆け引きの中でも手が込んでいて、ちょっとサイコ感ある。
もし自分が人型になれたとしても、バミューダで
そんな話を、エイジャにお披露目聞かせたタキシード。
「――てなことやねん」
「――さっすが兄ぃ! 二人のキューピッドになったね」
「きゅーぴっど? なんやそれ」
きょとんとするタキシードの鼻を、エイジャが人差し指でグイグイ押す。
「知らないの? 昔、片想いする男女の胸を、空から撃ち抜いて急かす赤ちゃんの一族がいたんだって」
「え……こわ。死んでしまうやん。しかも赤ちゃんが? なにのその不気味な連中……。シンプルに迷惑なんやけど……」
キューピッドなる理不尽な話に
「――今日の兄ぃは好き!」
「……おうよ」
タキシードのふさふさの頭をフンスフンスと嗅ぐエイジャに、ぶすっとして見せるも
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