下請け探偵は踊る
宿敵
タキシード探偵事務所。寝室の隅。クローゼットの中。
その奧の暗がりで、
棚の上に畳んで積まれたエイジャの洗濯物の上で香箱座り。うとうともせず、影に潜んでじっとしている。これをやるとエイジャの服が毛まみれになるという、ある種の迷惑行為なのだが、ここが一番落ち着く。
タキシードは、たまにこうしていたくなる。
猫の耳は素晴らしい。だが、どこにいても色々聞こえてしまうのが玉に
タキシード探偵事務所所長は今日も一人、この場所で
――
何処からともなく妹の呼び声がする。兄の意識は今やニルヴァーナの
――兄ぃってば~。
――……。
タキシードは目を閉じたまま大きく息をついた。無視しよう。エイジャに任せておけば良い。きっと上手いこと処理しておいてくれる。あれでできる子だ。
――レストレイドが兄ぃのお昼寝ベッドの上に座ったけど、いいの~?
クワッと、タキシードの目が見開かれた。
闇から忍び出した彼はトトトトトッと小気味よく寝室を駆け抜けた。
とっとことっとこ、事務所の奥から足を滑らせて応接室に登場したタキシード。急停止して身体を斜めに構え、キリッと目を吊り上げてイカ耳(耳をぺたんと後ろに倒した状態)になると、やんのか、おお? とでも言いたげなヤクザな眼光で
つま先立ちで
腹側が薄い茶色。鼻先と背中側に浮いた黒が特徴的な大型犬だ。あからさまな筋肉質で、口は大きく、足は太い。
「――レストレイド……わりゃぁ……戦争やでぇ……‼ 覚悟はできとるんやろうなぁ? おおっ⁉」
「所長……たまたまそこに良さげな場所があっただけッスよ。この子も悪気があったわけじゃねッス……へへっ……どうか、ここは穏便に――レストレイド、もういいよ」
応接ソファーに女が座っていた。エイジャの向かいで優雅にお茶をすすりながらその女が手招きすると、レストレイドと呼ばれた犬はさっと立ち上がって女の脇に移動してお座りし直した。その間、タキシードに
「貴様の指示か……イノライダー……! 場合によっちゃあ、南バミューダ中の獣と
「兄ぃは、こっちこっち」
ポンポンと膝を叩くエイジャ。タキシードはエイジャに歩み寄りながらも、その女から視線を外さなかった。
特徴的なのはその目。垂れ目ぎみで
どう見てもまともな人間ではないのだが、エイジャは自分と瞳の色が近いので紫仲間だと言って
タキシードはエイジャの膝の上に乗ってイノライダーを睨みつけた。
「そんな……とんでもないッスよ。……あ、でも警察犬組織と極道猫軍団の抗争は、ちょっと見てみたいかもッスね。へ、へ、へ」
「兄ぃが早く来ないからだよ」
エイジャに
「あ、あぁ! 今あいつ、鼻で笑ったで‼ ちょっとおもて出ろやこらぁ! その鼻くっ付いてるの後悔するくらいきっついのお見舞いしたる‼」
「はいはい」
「エイジャ! この前の下着ドロの件も文句言わなあかん! こいつら警察の仕事サボりまくってんねんでっ‼」
「どうどう――それで、イノライダーさん。今日はどういったご用件で?」
殺気立つタキシードは、エイジャにねじ伏せられてギュウと呻いて静かになった。それを見たイノライダーがカップをコトリと置いて切り出す。
「――あ、そうッスね……実は、依頼したいことがあって来たッス」
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