探偵タキシード
「兄ぃ! 連れてきたよっ!」
「キャロル!」
「ジョンソン……」
口に食べ
「おー、エイジャ。ご苦労。さ、ワシらは下で待つとしよか」
連れ込み宿の一階は大抵、穏やかなカフェスペースになっている。こういうところは欲望を
なぜか会話の調子が合うタキシードと浮気男がぺちゃくちゃとカフェで
結局、和解したらしい。ジョンソンから鉄貨を三枚頂戴すると、『まいどおおきに~』というタキシードとエイジャの唱和が、元サヤになった二人を見送った。
「そういや、あの布なんやったんや? ほら、ワシがバワーズんとこで見せられて嗅がされたやつ」
「あれね、キャロルさんのニーハイソックスなんだって。ジョンソンさんはキャロルさんの綺麗な足が大好きらしくて、お守りとしていつも肌身離さず持ってるって言ってたよ。変わってるね、ジョンソンさん」
「そんなん、きっしょいわ。
エイジャの話にげんなり顔になったタキシード。
――
寝取られ“なかった”男ジョンソンが、なぜもっとも重要な特徴であるはずのキャロルの巨乳に言及しなかったのか。その理由が判明した。
「はぁ」と一息ついたタキシードが、浮気男に向き直る。
「災難やったな、色男」
「いやいや、助かったよ。人妻だとは思っていなかったからね。流石は……名探偵タキシードってところかな?」
「おだててもなんもないで。まぁ、あれでどうなっても、色区で合意の上でやからな。なんもなかったとは思うけど」
「ははは。違いないね。でも僕にも職業柄があってね……ところで、エイジャちゃん、この近くにホエールスっていうお店があるの知ってる? 今度連れて行ってあげるよ」
「ふふふ……知ってますよ。兄ぃと一緒に常連ですから」
「え? そうなんだ……じゃあそうだな、
「お仕事中なのでー」
――こいつ……色区の近くばかり……っ‼
タキシードはエイジャの肩に乗って翼を目一杯広げ、色目を使い始めた浮気男にキッと鋭くガンを飛ばした。
「おい、色男。大事な逸物……せいぜい気いつけぇや」
タキシードの暗赤色に妖しく輝く眼光に射貫かれた浮気男は、ゾッとした顔になって両手で股間を覆っていた。
すぐにその場は解散となった後、場所は戻ってホエールス。
ジョンソンに奢ってもらったご飯の食べかけが残っている。そうエイジャが言ったから戻ってきたのだ。金が手に入ったので、タキシードも好物の〈
「あの黒髪の人も、いい人だったね」
「……いやぁ?」
黒髪浮気男は、色区でぽつんと立っていたキャロルの表情を見て、初めから慰めるつもりで声を掛けたと言った――嘘だ。断言してもいい。浮気男はキャロルの話を聞いてる間、彼女のおっぱいをずっと見ていたし、最後の方は肩に手を回そうとしていたのを、タキシードは窓の外から目撃している。その時の表情はデレデレ。窓を開けに行くキャロルの尻をガン見してもいた。だいたい、パンツ一丁だったではないか、パンツ一丁で真面目に相談聞く奴が世の中のどこにいるのか――エイジャはそこは見ていないか。
あいつの本性は女の弱り目に付け込むクズ。
世の色男を決して信用しない探偵タキシードの名推理だ。
あの男をいい人と評してる内は、エイジャはまだ若い。自分が保護せねばと決意を新たにしたタキシードだった。
「――エイジャ、お前に男はまだ早い。ワシの目が青いうちはな、変な虫は近づけさせへんで」
口と髭にたっぷりクリームソースをつけたタキシードが、そう言って舌なめずりしながら偉そうに胸を張ると、シャツに似た白い逆三角形の模様の端にぽたりとソースが落ちた。エイジャがニコニコしながらそれを拭う。その様子を見たバワーズが料理をしながらぼそり、ひと言。
「……シスコンめ」
「なんか言うたか?」
「えへへっ」
なぜか笑顔のエイジャと、再び目を細めてイワシにむしゃむしゃ
――タキシード探偵事務所、食糧難を脱す。
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