現場突入
「――ちょっとまったあああっ‼」
屋根を蹴って音もなく夜空を滑空したタキシードは、勢いのままキャロルが開けた窓に突っ込んだ。
窓から外を眺めていたキャロルの目には、空に漂う
タキシードがキャロルの顔にお腹をボスンとぶつけ、彼女を床に押し倒す形で浮気現場への突入を成功させる。
「――きゃっ!」
「――な、なんだっ⁉ グロテスクか‼」
「――わ、ワシは探偵! 探偵タキシードやっ‼」
思ったのとは違う、やや間抜けな着地になって動揺する心を早口で誤魔化したタキシード。浮気男は腰を上げつつ、部屋の脇に置いた彼の獲物――大きな赤い
「……猫? 翼がある……?」
男が混乱している隙に、タキシードがキャロルの顔からどいて確認すると、彼女の口の左端にほくろがあるのを確認できた。キャロルで間違いないだろう。そして、キャロルのおっぱいは大きかった――この特徴は聞いていないぞ、ジョンソン。
「ねーちゃんがキャロルやな? ワシはな、旦那のジョンソンに雇われて自分を探しに来たんや」
「えっ……ジョンソンが……?」
その後、タキシードがジョンソンの様子をキャロルに伝えると、キャロルは少し戸惑いながらも話に応じてくれた。
キャロルは夫に奮起してほしかったらしい。曰く、寂しかった。もっと求めてほしい。怒ってほしかった。
旦那の注目を引くという大義名分を掲げているが、結局は自分のエゴを正当化する論理だった。動機がアメリのそれに似ている。〈ペディグリオン〉出身のタキシードには、こういった性に
(もー、こんなんばっか。バミューダの女達、どうかしとるわ)
強い生殖本能が過剰な行動に走らせるのか。ロザリアンはそういった人間ばかりなのだが、この国の貴族はこんな庶民が相手にならないほどに性欲お化けらしい。この国を巡回する騎士団――〈
タキシードは大きく嘆息すると、窓から身を乗り出して「なおーん」と夜空に向かって吠えた。どら声気味で。
「――まぁ、旦那も悩んどったよ。今呼んだから、話
タキシードはキャロルを椅子に座らせた。すると、後ろから声が掛かる。
「君……ひょっとして噂の猫じゃないのか? 翼の黒猫」
「おお、多分そうやな……噂ってなんや? いよいよワシも有名人やな」
しばらくパンツ姿で成り行きを見守っていた浮気男だったが、タキシードが振り向くといつの間にか彼はちゃっかりズボンを
「ああ……色区に、癖の強い喋り方をする黒猫が夜な夜な出没するっていう噂が、最近
「まあ、大まかには
「うっかり口車に乗せられて暗がりに引き込まれると、闇に飲まれて二度と朝陽を
「……へぇ、めっさ邪悪な感じやな」
タキシードの髭がぴくりと揺れた。
「ところが、ばったり出くわしてしまってもミルクを
「怪談みたいな話になっとるやん」
「あと、NGワードがあるらしくて、怒らせると
「凶暴すぎるやろ。
「ほかにもいろいろあるよ。ところで、NGワードってなんだい?」
「……さぁな」
そんな話を浮気男としていると、エイジャがジョンソン連れて来た。
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