浮気妻の追跡
スンスン、スンスン――。
タキシードは空気を嗅いで鼻を利かせながら
油の焼ける香ばしさ、スパイスの香り、汗を初めとするその他諸々の体臭、ゴミのすえた腐敗臭、そして都市に潜む動物たちの獣臭。それが街の夜の匂いだ。
浮気妻キャロルの匂い――そういえば、あの嗅がせてもらった布は何だったのか――は、感じる。だが色々混ざってしまっていてよく分からない。あれから時間が経って
タキシードが脇道を横切った時、彼はふと、その路地に溜まった影の中に一匹の猫を見つけた。タキシードはこれ幸いとその路地に入っていき、「なぁ」と鳴き声とも呼び声ともつかぬ声を出した。その猫は応じてタキシードに歩み寄り、二匹は鼻先をツンッとぶつけて挨拶を交わした。
タキシードは動物と心を
タキシードはその猫と身体をこすり合わせながら、キャロルの見た目――白いズボンに縦ストライプのシャツ。癖のある黒い短髪に、茶色の瞳など――を伝えて見かけなかったか
あいにく、その猫はキャロルを見なかったようだった。タキシードはお礼に耳の裏を舐めてやり、また通りに戻った。
キャロルの匂いが先ほどよりも薄まっていた。こうなると、もう立ちんぼなんてしていないで、既に男を捕まえて行為を
屋根から見下ろす
連れ込み宿はマナーもあるし、あえてこういった場所で密談をしている場合もあるので、大半の部屋の窓は閉じられ、カーテンは締まっていた。人々は部屋に
タキシードが屋根の上をぴょんぴょんと飛び移り、立ち並ぶ部屋の様子をひとつずつ確認していく。キャロルの声は知らないが、そこはもはや探偵の意地と勘だ。部屋の気配を次々と探っていく。幸いまだ早い時間帯だからか、ほとんどの部屋が
しばらくそうして探し回っていると、通りを挟んで向かい側、数少ない明かりの灯った部屋の中から、幸運にもそれらしい特徴の女を発見できた。その部屋のカーテンは開いていた。
――事後か? 事後なのか?
「……そう……それは……」
「……わたし…………もう……」
どうやら、男がキャロルの悩みを聞いているフェーズのようだった。これは恐らくセーフだろう。タキシードはホッとしつつも、ここからどうすべきかと思案する。
状況は切迫していた。男は悩みを聞く空気を
タキシードが店の裏口から忍び込もうかどうしようか考えていた、その時、幸運にもキャロルが立ち上がって部屋の窓を開けた。
――ここだ!
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