貧する黒猫探偵の営業活動
閑古鳥
そんな
エイジャが、猫目を光らせて欠伸をするタキシードの隣に音もなく現れた。それは華奢な見た目からは想像もできない
彼女はにやりと口角をつり上げると、その白い指をワニのように大きく開いたタキシードの口に、彼に感づかれないように、静かに差し込んだ。するとタキシードが欠伸の終わりにエイジャの指に噛みつくような格好となり、何が起こったか
「――ちょ、エイジャ!」
「うふふのふー」
ここはタキシード探偵事務所。夕刻だ。今日も客は来なかった。
タキシードは大きく溜息をついてから、机の上で開いていた本に再び目を落とし、肉球で器用にページをめくった。
探偵事務所は立地的に恵まれない場所にあった。これは探偵という職業柄、素顔を広めたくないので郊外の人口密度が低い場所を選んだという理由などによる。それゆえ、客足は普段から当然少なく、タキシード探偵事務所を訪れる者は主に別口の
しかし最近はそちらの客足も途絶えている。
タキシードをからかって満足したのか、エイジャは椅子に座って「はぁ」と机に頬杖を突いた。クーッと彼女の磁器のように綺麗なお腹が鳴ったのはその瞬間だった。
タキシード探偵事務所の
ここが郊外の、そのまた端という
しかしその分、家賃もそれなりの重みがあるわけで。
「
とにかく、家賃を払った直後はこうなる。
この場合、選択肢はそう多くない。大家さんに“たかり”に行くのは最後の手段だ。これをやるとタキシードのメンタルがやられてしまう。
ご近所さんにたかりに行くのも、タキシードの人としてのプライドがずたずたになるのでおすすめできない。
もう成長期は終わっていると思うが、妹を飢えさせるわけにはいかない。いざとなればそういった手段も
営業活動だ。
タキシードは本から目を上げ、窓の外を見た。
――そろそろ夜だ。外に出てもいいだろう。
「エイジャ、バワーズのとこ行くで」
「はぁーい」
伏し目がちに、ふらふらと燃料切れ寸前のような動きで立ち上がるエイジャ。まだ大丈夫そうだ。本当にやばいと目の光が消えるのですぐに分かる。エイジャは並ならぬ優れた身体能力の持ち主なのだが、その分燃費が悪い。大排気量・高出力スペックなのだ。
とはいえもうすぐ街は夜に沈む。シャキッとさせねば。
「――とりあえず、飴ちゃん食べぇ」
タキシードが何処からともなく琥珀色の飴玉――
タキシードは小さく嘆息して、バッサバッサと部屋の中を飛んでエイジャの上まで行くと、咥えた飴玉を彼女の口に投下した。
落ちてくる飴を器用に口でパクリとキャッチしたエイジャは、そのまま両手を上に伸ばして空中のタキシードを抱えて降ろし、そのふわふわのお腹に顔を
――また妙な甘え方を考え出して……。
タキシードはエイジャのガス欠対策に、小さな
しばらくの間、ゴリゴリとエイジャが
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