第24話 梅雨

雨は昔を思い出させる

雨は嫌な出来事を思い出させる

雨は亡くなった人を思い出させる

雨、雨、雨

雨は私に降り注ぐ

雨は私を濡らしていく

雨は人を殺したくさせる

雨、雨、雨

どうか、過去も罪も洗い流してくれないか



私は今日もまた独り、雨に濡れていた。


静寂に満ちた夜の街、聴こえるのは雨の音だけ。

街灯が僅かに足元を照らす。私の足元に転がっているのは、さっきまで息をしていた男性だ。その男性のポケットから財布とスマートフォンを取り出し、襲った時に男性の手から落ち、転がっていた傘を拾い上げる。

傘で正面からの顔を見られないように塞ぎながら、私はその場から離れた。

私は人を殺しながら、日々を過ごしている。今日の男性からは、ひぃふぅみぃよぉ、四万円と少しの収穫だった。

ターゲットとなる男性はSNSで知り合う。勿論、自身のスマホからでは特定されかねないので、使うのは今奪い取ったスマホである。アプリをインストールし、適当なアカウントを作成して、適当なエサとなる写真を載せ、それに釣られた男性を殺し、財布から現金を入手、スマホから新しいアカウントを作る、これの繰り返しだ。

家に着くと、母が出迎えてくれた。遅くまで試験勉強お疲れ様、と言う。私もありがとうママ、と返事をして、用意された夕食の席に座った。

テレビでは全国的な梅雨入りと連日続く殺人事件について報道されていた。殺人犯は雨の日に行う、とコメンテーターが述べる。その通りだと私は頷きながら夕食を咀嚼した。

外ではまだ雨が降っている。今日から一週間ほど雨が続くらしい。

ふと、私の中で何かが疼くのを感じた。

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小説もどき 刻谷治(コクヤ オサム) @kokuya_osamu

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