第15話
お風呂から上がって部屋に戻ってから、わたしたちは色々なことをして遊んだ。トランプで神経衰弱やスピードをしたり、オセロで勝負したり、麗華が持ってきたUNOやすごろくをしたり。勝敗は半々くらいで、神経衰弱みたいな暗記系は麗華の方が得意だったけれど、オセロのようなボードゲーム系はわたしの方が上手だった。一通り手持ちのゲームを終えた後は枕投げ……ならぬクッション投げ大会をした。枕投げは本当の修学旅行の時もやったけれど、麗華と二人でやるクッション投げは、それはそれで楽しかった。クッション投げで疲れ切ったわたしたちは、その後、ついさっきまで投げあっていたクッションに座りながら他愛もない話をした。好きな食べ物とか、色とか、どこでも出来そうな話だったけれど、こうして麗華と向かい合って、わたしの部屋でパジャマ姿で話し合うのは、何だか特別感があった。ピンクの水玉模様のパジャマは麗華に凄く似合っていて、思わず目が離せなくなってしまうほどだった。とにかくそれは楽しい時間で、時計も気にせずにわたしたちは話し続けた。こんなに夜遅くまで起きたのは、わたしの人生で初めてだった。
けれどそのうちわたしの眠気にも限界が来てしまったみたいで、ふと気がついた時にはカーテンから漏れた朝日がわたしの顔を照らしていた。どうやらクッションを枕にして、そのまま床で寝てしまったみたいだ。目を開けると視界いっぱいに麗華の顔が映ってて、思わずわたしは声をあげてしまう。
「うわっ」
朝日に照らされた麗華の顔は、まるで美術館に展示された絵画みたいに神々しかった。
「うぅん……」
麗華が人差し指で軽く目をこする。そして、しばらくしてからゆっくりとその瞼を開けた。
わたしたちは、じっと見つめあう。麗華の琥珀色の瞳は太陽の光を受けて、いつも以上に鮮やかだった。まるでにらめっこでもしているかと思うほど、無言で見つめ合っていたわたしたちだけど、たっぷり十秒以上たってからようやく麗華が口を開く。
「香織、おはよ……」
「おはよう、麗華」
「気づいたら、床で寝ちゃってたみたい」
「わたしも……。ごめんね麗華、本当は麗華用の布団を敷くつもりだったんだけど、その前にわたしが寝ちゃって……」
「大丈夫だよ。夏だから掛け布団は無くても寒くないし、香織の部屋のカーペットは十分フカフカだったから」
「そっか。良かった……」
わたしはそのまま起き上がろうとして、自分が胸にペンちゃんを抱えていることに気がついた。
「あれっ? わたし寝る前に、ペンちゃん抱いてたっけ?」
確かペンちゃんはベッドの上に置いていたはずなんだけど……。
「あっ……それは夜中に一回目が覚めた時、香織が寝言で『ペンちゃん……』って言ってたから私が勝手に持ってきちゃった」
「えっ……わたし、そんな寝言言ってたの? 恥ずかしい!」
わたしは両手で頬をおさえる。麗華に寝顔を見られたのも、寝言を聞かれたのも恥ずかしかった。
寝ている時にいびきとかかいてなかったかな……よだれ垂らしてなかったかな……。
色々な心配が一気に湧いて出る。
「盗み聞きたいなことしちゃってごめんね。でも香織の寝顔、可愛かったよ?」
「もうっ! 麗華ったら!」
わたしは真っ赤になった顔をペンちゃんで隠す。
「でも、わたしだって麗華の寝顔見たもんね! それもついさっき!」
「えっ……あっ!」
麗華は自分が目覚めた時既に、わたしの目が開いていたことを思い出したみたいだ。ペンちゃんの影からチラリと麗華の様子を覗くと、麗華もわたしと同じ様に顔を赤くさせていてた。
「わ、私は変な寝言言ってなかったよね?」
「変な寝言ってどんなのかな?」
「そ、それは……って言わないよ!」
麗華は枕代わりのクッションをわたしに投げつける。わたしも負けじと投げ返して、クッション投げ大会の二回戦が始まった。やっぱり麗華と二人でいると退屈しない。
結局、麗華は朝ごはんと昼ごはんをわたしの家で食べて、夕方過ぎに迎えに来た澪さんと一緒に帰っていった。
「麗華ちゃん、いい子だったわね~!」
麗華を玄関で見送ってから、お母さんはそんなことを言う。
「そりゃ、わたしの自慢の友達だもん!」
「次来た時は、オムライスの作り方でも教えてあげたいわ」
お母さんは大変麗華のことを気に入ったみたいだった。こうやって自分の友達、いや、親友が褒められるのは嬉しかった。
「香織も、もう少し料理の練習してみる?」
「う~ん、じゃあ挑戦してみようかな……」
今まで、あまり料理はしてこなかったわたしだけれど、麗華の話を聞いて、わたしもやらなきゃ……と思うようになった。
麗華と出会ってから、わたし自身の考え方も少しずつ変わってきているような気がする。麗華色に染まっているのかもしれない。
「本当? じゃあ今晩は、ピーマンの肉詰めを一緒に作りましょう!」
「それは勘弁して!」
それでもピーマンが嫌いなのは変わらないけれど……。
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