邂逅、そして、胎動

「……あ、れ? ここって……」


 真っ白。そう、真っ白だ。どこを見ても真っ白な空間に、ボクはふわりと立っている……いや、浮いてる、のかな。


 土も畑も小屋も肥料の臭いも焼け焦げた臭いも、何もない。地獄絵図になりかけていた村の景色が、丸ごとなくなっちゃってる。


 それだけじゃない。ボクの腕の中にいたおししょー様も、ノクトスさん達やディアーネにカンナ、フレスベルグや魔物達も影も形もなくなってる。


 まるで夢を見てたかのように、ここにいるのはボクだけ。ボクだけだ。


『よォ、よく来たナ』


 ボクの頭がどうかしちゃったのか、と思い始めたその時、背後から〝声〟。

 振り返るとそこには……、


「キミ、は……?」


 真っ白な〝人〟が、いた。


 そうとしか表現しようがない、人のような形をした真っ白な何か。輪郭はぼやけ、表情も分からない。でも、多分笑ってる気がする。


 訳が分かんない……のに、何故か不思議と納得しているボクがいた。ここは、こいつの場所なんだ、って。


『いやァ、好き放題やられてんなァ? 頼むゼ、相棒。こんなとこでやられる為に冒険者になったわけじャ、ねぇだロ?』


 やられて……そうだ。ボクはこんなとこでちんたらしてる場合じゃないんだ。


 ノクトスさんとメメリエルナさんは、不利な状況でも諦めずに前を向いていた。ディアーネとカンナも、自分に出来る事をしようと頑張ってる。


 そしておししょー様は、ボク達を護ってくれた。勇者として躊躇なく命を懸けて。おししょー様みたいな冒険者になりたい、って思って弟子入りしたのに。ボクは護られてばかりじゃんか。


 力がない、なんて言い訳をして何かが変わるの? いや、何も変わったりしない。

ボク自身が、変わらないと。そうじゃなきゃ、ダメなんだ。


『さぁテ、ここで弱っちいアスミア・ワトナちゃんに朗報ダ。優しい優しい〝僕〟ガ、アスミアちゃんに力をあげてやっても』

「ください」


 迷わない。ボクが今すべきは、あの魔族達を皆殺しにして村を、おししょー様を護る事。その為に必要な事を、やるんだ。


「くれないなら、力ずくで貰ってくから。だから、ください」

『……くくク、言うねぇガキガ!』


 白い声が、大きく笑った。ぼんやりとした白い手をこっちに差し出してくる。


「マ、それくらいじゃねぇと〝僕〟の相棒は名乗れねぇがナ。ニンゲンってのハ、ちょっと我が儘なくらいでちょいどいいゼ」

「別にボクは君の相棒じゃないもん。我が儘だけど」


『くくク……〝向こう〟で調子に乗ってるアイツ、闘うのが好きだとかほざいてたロ? だが〝僕〟の見立てだとそうじゃねェ。ありゃきっト、嬲るのが好きなだけダ』


 ボクも手を差し出すと、白い手はボクの手を握った。暖かくも冷たく柔らかくも硬くもない。形ある〝光〟に包まれているような、そんな感触。


『じゃなきャ、お強い勇者サマと闘えるってのに雑魚同伴で喧嘩売るのは道理に反するわナ。弱いものイジメしかした事ねぇんだろうサ』

「どうでもいいよぅ。ボクのやる事は、変わんないもん」

『くくッ、そりゃそうダ!』


 周りが更に白くなっていき、意識も薄れていく。ボクは目を凝らし、白い人に尋ねた。


「ねぇキミ、名前は……?」

『言っても意味ねぇっテ。どうせ忘れちまうんだかラ』


 声は笑う。さも愉し気に。


『さぁ行けヨ、相棒。嬲ル、なんてつまんねぇ遊びをしてるクソ魔族なんザ、さっさとミナゴロシにしちまいナ――――』

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