何様のつもり?
ばっちゃの家から少し離れたとこにある畑。その辺りでおししょー様と魔族、魔物達が闘ってる。攻めてくる魔物をおししょー様が剣で切り捨て、言霊で蹴散らしてる。
ばっちゃの家は村の隅の方にある。おししょー様は魔族と闘いながら、ここまで押し込まれちゃったんだ。
当たり前だ、向こうの数が多すぎる。やられてもやられても次の魔物が襲い掛かってくるから、おししょー様でも対応しきれないんだ。
「おいおいおいおい、勘弁してくれよ勇者サマよぉ?」
フレスベルグがおししょー様に話しかける。いつもと同じ気怠そうな口ぶりだけど、顔だけは明らかに怒っていた。
「俺サマ、言ったよなぁ? 強ぇヤツと闘いてぇって。その為にこんな辺境のど田舎まで来たって。ちゃんと言ったはずだよなぁ!」
「……それが、どうした」
息も絶え絶えに剣を振るおししょー様。すぐにでも駆け寄って支えたいと思ったけど、ぐっと堪える。助けになるどころか邪魔になりかねない。
横を見ると、ディアーネもおししょー様達を見ていた。唇を噛み、ぎゅっとこぶしを握り締めている。多分、ボクと同じ気持ちなんだ。
「オマエ、今までの人間の中で一番強ぇ。剣も言霊もな。俺サマ、マジで嬉しかったんだぜぇ? 皇国を潰した時も、オマエレベルのヤツはいなかったからなぁ」
「皇国を……そうか。貴様、
「言うねぇ……じゃあマジで闘えやごらぁ!? テメエの全力を俺サマにぶつけて来いよ! それをぶちのめしてこそ、闘いだろうが!!」
激昂する魔族。その叫びにすらも魔力が込められているのか、突風になって辺りに吹き荒れる。
「さっきから何だ、あぁ? 仲間逃がしてタイマン勝負かと思ったら腰の引けた剣捌きにショボい言霊! それでも勇者かオマエ!」
「ああ、勇者さ……勇者とは護る者。ただ勝つ事しか頭にないお前とは、違う」
おししょー様がこちらを見た。まるで、ボクがここにいる事を始めから分かってたみたいに。
と、ボクの横に立ったノクトスさんが笑いながら言う。
「勇者は護る者、ねぇ。攻撃一辺倒の俺への当てつけかぁ? リューネ」
「ぼやかないの! って言うかぁ、体力も魔力も全然完治できてないんだからねぇ?」
「時間切れだ、しゃあねぇ。おいリューネ! 交代だ!」
走り出す二人。それを見たフレスベルグはちょっとだけ眉を動かし、
「……なぁるほどねぇ?」
にたりと、笑った。手に魔力を集め始める。
「つまり、だ。護るべき雑魚を潰しちまえば、オマエは俺サマを楽しませてくれる、って事だなぁ? 〝炎〟の声を聞け!」
「……っ、止まれ二人とも! 〝地〟の声を聞け!」
標的をこっちに変えたフレスベルグと、回り込んでボク達の前に立ったおししょー様が同時に言霊を紡ぎ始める。
「火より生まれし命よ。終焉の炎に燃え散れ、黒き灰へ還れ!
「
フレスベルグの指から噴き出すように、ボク達目掛けて突っ込んでくるおっきな炎の竜巻。それをおししょー様の創り出した透明な膜が防ぐ……かと思ったけど。
「ぐっ……ぁ」
貫かれこそしなかったけど、炎の竜巻は透明な膜を押しのけるように進んだ後、空中で爆発した。衝撃波に吹き飛ばされないように堪える中、
「っ……! おししょー、様っ!」
横殴りに吹っ飛んできたおししょー様を、何とかキャッチ! ボクの腕の中でぐったりとしているおししょー様の姿は、今までに全く見た事がないほどに弱々しく、痛々しい。
「ちっ、あの魔族野郎……! 俺よりも攻撃特化の言霊って事か。防御主体の〝地〟でようやく防げるレベルかよ!」
「う~ん、マズいわねぇ。流石のリューネ君でも体力と魔力に限界はあるわぁ。少しだけでも治療しないと……ノクトス、一人でやれる?」
おししょー様、死んじゃう……? うぅん、そんなわけない! おししょー様は強いんだ! あんなヤツになんか負けるわけがない!
「やれる……とは言い切れねぇな。向こうも俺も超攻撃型、どう立ち回っても周囲に被害が出る。リューネの治療をするにも、さすがにこんな戦場じゃ無理だ」
「ノクトスさん! あたしも、あたしも闘います! あたしにはまだ、やれる事がありますもの!」
あの魔族……フレスベルグ! 許せない、おししょー様をこんなにして! 本気で闘えだとか楽しませろだとか、何様のつもりなんだ。
「ダ~メ、よぉ? ディアーネちゃんにはまだ早いわぁ」
「ああ、その通りだディアーネ。お前、切り札使うつもりだろ? アレはまだダメだ。違う意味で問題が起きかねないからなぁ」
それに、ばっちゃの畑が燃えてる。今の言霊の爆発のせいだ。みんなで頑張って、助け合って暮らしてるのに、どうしてこいつにそれをぶち壊されなきゃならないの?
「ですが……っ! ここで全滅してしまっては意味がありませんわ! ノクトスさんだってまだ本調子じゃないですし、リューネさんも……!」
「ディアーネ、さん。ここは勇者さんに従った方が、いい。……私達が足手纏いなのは、確かだから」
そして何より。なんでボクはこんなヤツに全く歯が立たないんだ。こういうヤツをブッ飛ばすために、ボクは勇者を目指したんじゃないのか。
「カンナの嬢ちゃんよぉ、足手纏いとか言うなや。俺はさっきから何度嬢ちゃんの言霊に命を救われてると思ってんだぁ?」
「そうそう。だから、今度は私達勇者が頑張らなきゃ、って話なのよぉ。こう見えて修羅場はくぐってきてるから、まぁ見てなさいってぇ?」
力が欲しい。いつか、その内、じゃない。今すぐに。
そしたらこんなヤツら、皆殺しにしてやるのに……っ!
『いいネ。じゃあやろうゼ? ミナゴロシ』
「え? だ――――」
「――――れ?」
頭の中で響くように聞こえた不思議な〝声〟。ぐにゃんと意識が捻じ曲がる。
その次の瞬間、ボクは真っ白の中にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます