ポンコツバカとバカババア
「何で逃げてないんだよぅ! 魔物があんなに攻めて来てるのに!」
「バカ言ってんじゃないよ! あたしゃこの家の主だ。逃げてる場合じゃないだろ、このポンコツが!」
「バカなのはそっちだよぅ! 魔物に襲われたら死ぬのに? 家の主だから逃げない? とうとう脳みそまで腐ったのかこのポンコツババアめ!」
「育ての親をババア呼ばわりたぁ、ちょっと会わない間に随分と偉くなったもんじゃないか、あぁん?」
ひとまずばっちゃの家に避難したボク達。メメリエルナさんの言霊で傷の治療を、ディアーネの持ってきた
ノクトスさんが全快したらすぐにおししょー様を助けに戻るつもりだけど、パッと治るモノでもないから、ほとんど無傷のボクはアホのばっちゃと久しぶりにバトル!
ばっちゃの事が心配だったからこそ、ちゃんと怒らないと……って言うのもあるけど、やっぱりおししょー様が心配で、黙って待ち続けたくなかったっていうのが本音。
大丈夫。おししょー様は勇者なんだから……、……。
「……ねぇノクトスさん、訊きたいんだけどぅ。おししょー様が〝地〟の勇者って……?」
「ん? あー、うん、そうだな」
ノクトスさんはまだまだ本調子じゃなさそう。メメリエルナさんの治療を受けながらこっちを見る。
「俺じゃなくてリューネ本人から説明するべきなんだろうが……ま、いいか」
「リューネ君が昔、私達と一緒に旅をしてたのは知ってるわよねぇ?」
メメリエルナさんが治療を続けながら言う。ボクは黙って頷いた。
「当時の俺達は、冒険者のグループとしてはかなり有名でな。三人とも言霊に目覚めてなかったのもあって、もし目覚めたらどうなるんだ、みてぇな期待をされてたわけだ」
「で、最初に私、次にノクトス、そして最後にリューネ君が目覚めたわぁ。でも、リューネ君の言霊が〝地〟だったから、ちょっと状況が変わっちゃったのぉ」
「〝地〟の言霊ってのはまぁ、普通の言霊じゃなくてなぁ。簡単に言えば、それは〝真なる勇者〟の資格らしい」
「真なる、勇者……? 四勇者とは違うの?」
尋ねると、ノクトスさんはがりがりと頭を掻いた。
「あー、まぁな。四勇者、ってのは表向きの勇者。実力者から選ばれるのは事実だし、勇者としての特権も与えられるが、『言霊に選ばれた』本当の意味合いでの勇者はリューネって事になる。四勇者を束ねるリーダー、ってとこだな」
「ふぉぉ……!」
勇者のリーダー……! やっぱりおししょー様は凄い人だったんだ……!
なんか嬉しくて、誇らしい。やっぱりおししょー様に弟子入りして良かったよぅ!
「俺達は言霊に目覚め、リューネはその時点で勇者の資格を得て、Aランクのさらに上、ただ一人のSランクになった……んだが、あいつはそれから俺達のグループを抜けて、単独で行動するようになってなぁ」
「リューネ君だけ王様と何か話してたから、それと関係があると思うけどぉ。あまり目立たないように行動してるみたいだし、徹底的に情報も規制されたから、リューネ君が〝地〟の勇者だって事を知ってる人間はほんの一握りのはずよぉ?」
「そっかぁ……」
〝地〟の言霊の事を人に話さないように言ったり、勇者の話題を出した時にちょっとピリついた空気になったり。確かに、おししょー様はノクトスさん達とは何か事情が違うんだと思う。
でも、おししょー様の根っこは変わってないんじゃないかな、とも思う。人間の事を真剣に考えるおししょー様も、今も命懸けで闘ってるおししょー様も、ボクの知ってるおししょー様と何も変わらない。
なら、いいよね。細かい事は、いつかきっと話してくれるはず。ボクはそれを待つだけ!
「……あのぉ」
と、ずっと黙ってたディアーネがおずおずと手を挙げた。
「あたし、〝地〟の言霊だとか勇者についての話を聞いても良かったんでしょうか……? 限られた人間だけが知ってる事なんでしょう?」
「同感。私、ただのミアの友達なのに」
「だぁっはっははは! 問題ねぇだろ。ディアーネはアスミア嬢ちゃんのライバル、カンナの嬢ちゃんは友達、ジルバさんは育ての親。で、アスミア嬢ちゃんはリューネの弟子。立派な関係者じゃねぇか」
「随分とざっくりした関係者ですわね……まぁ、別に他言するつもりもありませんが」
呆れたように肩を落としたディアーネは、今度はメメリエルナさんに言った。
「それで、先程聞き損ねましたが。増援の冒険者はどうなっているんですの?」
「来ないわよぉ、増援」
「は? 来ない? 遅れる、とかでもなくてですか?」
「ええ」
「ど、どうして!?」
「ディアーネちゃんが持ち帰った、あの魔族の魔力痕を特急で解析したの。で、それが
「あ、あいつが
「だから、Bランク以下の冒険者を中途半端に送り込んでも協会の戦力を削るだけ、って判断になったの。で、そこにいた最高戦力のリューネ君と私が来たんだけどぉ」
「なるほど、な。って事は尚更、俺もとっととリューネの援護に入らねぇとな……メメリエルナ」
「焦らない焦らない。まだもうちょっと掛かるわぁ」
「いつもより遅くねぇか?」
「それだけ重傷だったって事。自覚しなさぁい」
もうちょっと。もうちょっとで、おししょー様を助けに行ける。
ボクなんかに出来る事はないかもしれないけど、それでも行くんだ! だってボクは、おししょー様の弟子
「っ……!?」
どごぉ! と轟音がすぐ傍で。みんなが身構える中、ボクは誰よりも早く家を飛び出し、
「お、おししょー様ぁ!」
目に飛び込んできた光景に、思わず叫んでしまった。
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