足手纏いの底力、見せてやる!

「あれ、なんか数増えちゃってんじゃん? 援軍ってヤツ? って、一人はさっき取り逃したヤツだなぁ。そうだろ?」

「……っ」


 語りかけられたディアーネは、肩を震わせて一歩退いた。ディアーネ自身の意志と言うより、体が反射的に逃げた。そんな感じに見えて。


「ま、いっか。で、そっちはハジメマシテだなぁ。オマエも冒険者なんだろ? 言霊は使えんの? ってか強いの? 弱いの? 俺サマが知りてぇのはそれだけなんだが」

「……カンナ、ディアーネ」


 ボクは魔族を無視して小声で言う。


「時間を稼ぐから、その間にノクトスさんを治してあげてよぅ」

「なっ……おいちょっと待て嬢ちゃん! んな危険な真似は」


「ノクトスさん。この子、ちょっと頭が残念だから言っても分からないと思います」

「同感ですわ……〝雷〟の声を聞け。その身に雷鳴束ねし闘神の加護を。雷刃らいじん


 ばちぃ! とボクのヘルサイスに雷が纏わりつく。ゲイルハウンドの時と同じだ。


「餞別です。さぁ、お行きなさい!」

「死んだら殺すよ、ミア」

「にしし……うん!」


 さっすがボクの友達。ボクの事をちゃんと分かってるよぅ。ボクはヘルサイスを握り直し、魔族目掛けて走り出す。


「お前ら……バカか、勝ち目はねぇぞ!」


 うん、知ってる。ボクがバカな事も、勝てない事も。だってこいつの魔力、あり得ないくらいに強いもん。


 きっと、対抗できるのはノクトスさんくらい。でも、ノクトスさんはボロボロだから回復するための時間がいる。

 カンナは闘えないし、ディアーネもふらふら。ならボクがやらないと!


「……なぁにを俺サマ抜きで盛り上がっちゃってくれてんだごらぁ!!」


 と、少し浮かび上がった魔族が大きく翼をはためかせた。撃ち出された大量の白と黒の羽がボクに襲い掛かる。

 羽……だけど、その一つ一つにすっごい魔力が込められてる! なんかぐいーんってすごい曲がってボクに向かってくるヤツもあるし! 喰らったらヤバイ!


 避けれるヤツは全力で避けて、追いかけてくるヤツは鎌で切り落とす。多分、ディアーネの言霊で雷の魔力を纏ってなかったら、それすらも出来なかったと思う。それくらい、こいつの魔力はバケモノじみてた。

 ボクの目的は勝つ事じゃなくて時間稼ぎ。このまま逃げ回って……って思ったけど、こいつは村をめちゃくちゃにした。せめてその仕返しくらいはしてみせるもん!


「はぁぁ!」


 羽の攻撃が途切れた隙をついて、足に魔力を集中させて大ジャンプ。余裕の表情で翼を羽ばたかせてる魔族の体に鎌を振り下ろす!


「……っ」


 がきぃ! とても生き物の体を斬り付けたとは思えない音が響き、ボクの鎌は跳ね返された。この感触、魔力だ。魔力で体をあり得ないくらい硬くしてるんだ。

 ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ傷をつけられたけど、斬るどころか振り抜く事すらできない。同じように魔力で体を硬くしてたハイオークとも比べ物にならない。


 地面に降り立ったボクはすぐさま魔族を見上げた。魔族は自分の体から薄く染み出た紫色の血を指先で掬い取って笑ってた。


「へぇ、虫けらのくせに頑張るじゃんオマエ」

「虫けらかどうかは、潰してから言うんだ、よぅ!」


 ボクはもう一度走り出す。まだノクトスさんの回復が終わってないし、何よりボクの鎌がまったく通用しないわけじゃない事が分かった。

 一回でダメなら十回、それでもダメなら百回。根気比べなら、負けないよぅ!


「ひひひっ! いいねぇオマエ、そのイノシシみてぇな無鉄砲さ!」

「だぁれがイノシシだよぅ!」


 これ以上ボクのあだ名を増やすな、魔族め!

 何がそんなにおかしいのか、肩を揺らして大笑いする魔族。くそぅ、一泡吹かせてやる!


「でもなぁ、今のが全力だろ? はぁ~あ、なんか飽きたわ。もういいぜオマエ」


 と魔族が一転、つまらなそうに息を吐く。そしてゴミを見るような目でボクを見下ろし、翼をぐぐぐと持ち上げた。

 今度は羽を撃ち出すというより、空に放り投げた感じだった。さっきよりも少ない数の羽は、けど少しした後に急降下を始める。


 やい。さっきの倍近く迅やい。魔族がにたりと笑う。


「死ね」

「死なない!」


 大丈夫、迅やいだけ。ちゃんと、見えてる!

 全身と全魔力を総動員し、羽を避けては叩き落す。数が少なかったのもあって、どうにか凌ぎ切る事が出来た。


 次は、こっちの番だ! ボクはもう一度大ジャンプ


「俺サマが死ねっつったら、死ぬんだよ虫けらがぁ!」


 したその瞬間、魔族がもの凄いスピードで突っ込んできた。さっきの羽よりも、さらに迅やい。


「うわぁっ!?」

「ミア!」「アスミアさん!?」


 空中なので避ける事も出来ず、ボクの体は為すすべもなく吹っ飛ばされた。

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