瞬間移動、からの、高速移動

「――――っぷはぁ!?」


 全身が光に包まれて、ふわりと体が浮き上がって。ぐにゃりと歪んでる変な場所を猛スピードで飛んでいく感覚。まるでボク自身が風になっちゃったみたいな、味わった事のない不思議な感覚。


 もの凄く長い時間、そんな体験をしてたような気がするけど、多分一瞬の事だったんだと思う。目も眩む光が消え去っていく中、ボクは目の前に広がる景色に目を見開いた。


「……村……」


 エアラメーベの魔動器の代わりにあったのは、見慣れたアゾートの村。ついこの間まで当たり前のように暮らしてた、ボクにとっての全てだった小さな世界。


「村が……」


 カンナとくだらない事を話し、ばっちゃとくだらない事で喧嘩した、臭い肥料の臭いがあちこちに染みついてる、ド田舎の村。

 ボクの目から涙が流れた。次々と沸き起こってくる懐かしさと、


「……村がっ……!」


 その、変わり果てた姿に。


 ボクがイメージした村の入り口には人がほとんど住んでないので殺風景だったけど、それでも、収穫したお野菜とかを置いとく為の小屋とか、行商人の人の休憩所とかがあった。

 そのどれもが、壊されている。踏み荒らされている。数十、いや、数百の足跡が縦横無尽に辺りを駆け回っているのが分かる。


 そして、無造作に散らばった魔物の死体。獣人族オーク魔猟犬ハウンドドッグ、それにボクの知らない魔物のヤツまで。何十匹も転がったそれから、肥料の臭いとは段違いの腐臭が漂い始めてる。


「……な、何度体験しても『風流移閃』の感覚は慣れませんわ……」


 と、ディアーネがちょっと気分が悪そうにボクの横に立つ。


「でぃ、ディアーネ! 村が……!」

「見れば分かりますわ! ……魔物の物量に押されて、可能な限り狩りながら少しずつ後退した、って感じですわね」


 耳を澄ませると、確かに奥の方から色んな音が聞こえてくる。何かを壊してる感じの音。まだ、ノクトスさんが闘ってくれてるんだ。

 泣いてる場合じゃない。何のためにここまで来たんだボクは!


「じゃあ魔物が村の奥に! 早く、早く行こうディアーネ!」

「お待ちなさいな。焦る気持ちは分かりますが、こんな時こそ冷静に、ですわ」


 涙を拭うボクの横で魔力を回復するお薬を飲むディアーネ。それを投げ捨てながら、手に魔力を集め始める。


「言霊……? 何するのぅ?」

「どうせ走るなら、出来るだけやい方がいいでしょう?」

「迅やい……あ、そっか」


 言ってる意味がようやく分かったボクはディアーネの肩に手を置く。『エアラメーベ』の魔動器で移動する時に、ディアーネがボクに触れていたように。


「行きますわよ。ちょっと気分が悪くなると思いますが、気合で何とかしてくださいな」

「どんと来い、だよぅ!」


 この先にはきっと、ものすごい数の魔物と、ものすごく強い魔族が待ち構えてるはず。

 体が少し震えてきて、手で押さえつける。ビビってる場合じゃないんだ。力で負けてるなら、気持ちだけでも強く持ち続けなきゃ! 


 深呼吸を二回。その後頷いたボクに、ディアーネも頷き返す。


「〝雷〟の声を聞け。たかが一歩、されど一歩。は雷神の歩み……迅雷じんらい!」


 その瞬間、また体を浮遊感が包む。


 エアラメーベの時と似てるようで、全然違う。さっきは光しか見えなかったけど、この『迅雷』は景色が見える。ものっ凄い迅やさで通り過ぎていく。

 ひどい有様の村、畦道を塞ぐ魔物の死体。全てを蹴散らしながら、ボク達は〝雷〟になって駆け抜けた。

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