さぁ、里帰りだ
アゾート村がピンチ。それが分かった後、ボクに何ができるか、どうすればいいか。走りながら一生懸命考えた。
でも、ボクのすべき事なんて考えるまでもなく最初から分かってたんだ。だって、気が付いたらボクは地下へと続く階段を全速力で階段を駆け下りてたから。
「……あった……!」
地下に広がる空間。その中央に置かれた、『エアラメーベ』の魔動器。
一目散に駆け寄って魔力を注ぎ込む。光の玉が魔動器の中に浮かび上がり、くるくると回転を始めた。
後は村の景色を頭の中に思い浮かべて――――
「――――
「っ……!?」
ばちぃ! と弾けるような音が聞こえたと思ったその瞬間、ボクの両腕を後ろから掴まれる。いつのまにか、ディアーネがそこにいた。
「やっと、追いつきましたわ……! ただでさえ魔力を消費してるのです、無駄に言霊を使わせないで下さい!」
「っ、離してよぅディアーネ! 早く行かないと、ばっちゃが、カンナが……!」
「いいから一度落ち着きなさいな!」
ぱしん! ほっぺたがじんじんと熱を帯びる。
腕を振り抜いたディアーネは、大きく息を吐き出した。
「……いいですか? あなたの様子を見れば、アゾート村があなたと縁の深い場所であることは想像がつきます。ですが、行ってはいけません」
「何で! ボクはみんなを」
「みんなを護る? ええ、それは高尚な考えですわ。それだけの〝力〟を備えているのであれば!」
がしっとボクの肩を掴み、ディアーネは瞳に力を込める。その瞳は、ちょっとだけ泣いてた。
「敵わなかったんです! 言霊使いの私が、手も足も出なかった! Cランクのあたしが、ただの足手纏いだった!」
唇を震わせ、ディアーネは叫ぶ。
冒険者として、言霊使いとして、ディアーネは自分に自信を持ってたはず。それが魔族ってヤツに砕かれちゃったんだ。
泣いてるのは、怖いから? うぅん、違う。きっと悔しいんだ。
「だから、行ってはいけません! 今はノクトスさんを信じて、リューネさんを信じて、堪えるんです……!」
あぁ、ディアーネはホントに優しい子なんだね。
初めて会った時も、物言いこそカチンと来たけど、ボク達の事を心配してくれてた。ディアーネなりに、〝人々を護る〟為に必死なんだ。
……でも。
「ボク、バカだからディアーネの言ってる事が全然分かんないよぅ」
必死なのはボクも同じ。誰かを護りたいのはボクも同じ。
「今、ボクの大切な人が危険な目に遭ってる。ボクはそれを助けたい。それってダメな事?」
全く敵わないかもしれない。死ぬかもしれない。でも、そんなのは冒険者にとって当たり前の事。冒険者になると決めた時から、ぼんやりと覚悟してた事。
「……っ、そうではありませんわ! ただ、時と場合によって臨機応変に」
「大切な人を護るのにいちいちそんな事考えてどうすんのさぁ!?」
「……っ!?」
ボクも負けじと叫んだ。魔動器の光が揺らめく神秘的な世界に、場違いなくらいにうるさい声が木霊する。
そうだ。目の前の誰かが危ないって言うのに、勝てるか負けるか、とか考えてる暇なんてない。そんなんじゃ、会った事もない人達を護るなんて無理だよぅ。
じゃあ悩む必要なんてない。冒険者として、アゾート村の一員として、やるべき事をやる。もう、それだけでいいじゃんか。
「ばっちゃも言ってた。バカは体で覚えるしかないって。だからボク、行くよぅ」
ボクはディアーネの腕を振り払い、魔動器に手を添えた。思い浮かべる場所は、ばっちゃの家……うぅん、あんな辺鄙な場所なんてわざわざ襲わないかな?
「……え? ディアーネ?」
と、ディアーネがボクの腕を掴む。けど、今度は魔動器から引きはがそうとしない。むしろ、魔動器に押し付けてきている。
「えと、どゆ事?」
「……この短い旅の中で、あたしもどこぞのおバカさんの影響を受けてしまった、という事なんでしょう。まったくもって屈辱ですわ」
唇を尖らせて言うディアーネは、ボロッボロのドレスを見下ろして溜息を吐きながらも少しだけ笑っていて。
「先程、魔力の
「ディアーネ……にしし。ボクと同じで負けず嫌いだぁ」
「おバカさ加減においてはあなたに敵いませんけど、ね。……行きましょう。最後に見た時は、ノクトスさんは村の入り口あたりで交戦していましたわ」
「オッケー!」
……本音を言えば、ちょっとだけ怖かった。ディアーネの話を聞くだけでも、魔族ってのがどれだけヤバいのかは伝わってくる。
でも、心強い味方が出来た事でそれもどこかに吹っ飛んでった。変な話だよね。ボクもディアーネも勝てるはずがない相手なのに、なんか安心しちゃってるんだもん。
そう、ボクはノクトスさんを助けに行って、村のみんなを護るために行くんだ。魔族を倒すとか、そういうのはひとまず考えない。
「……ちょっと先に行って待ってるね? おししょー様」
ボクは小声で呟き、エアラメーベに更に魔力を込めた――――
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