踊ろう、皆殺しのワルツを……なんてね?
『――――それでは、まずは予選一組目。Aグループの皆さん、舞台の上へ! それ以外の人は舞台から降りてください!』
はっとする。ボクは顔を上げた。
この武術大会の参加者はいつも数百人はいるらしい。冒険者が全部でじゅーまんにん、って話だから、それを考えると多いとは言えないと思う。
でも、大会でその人数が順番に闘ったら日が暮れる。って事で、最初に数十人くらいのグループに分けて予選をやって、その中で勝ち残った人が本選に行けるんだって。
で、予選の闘い方はすっごくシンプル。
『それではAグループ……始め!』
みんな敵! 乱戦! とにかく全員ぼこ倒せ!
ボクは握り締めた『A』の文字が記された紙切れをジャケットにねじ込み、ヘルサイスよりもだいぶ軽い刃の潰れた草刈鎌を構えた。
田んぼ十個分の舞台の上に散らばったボク達Aグループは、二十人ちょっと、かな? 舞台が広すぎるのもあって、みんな距離を取って様子を見ている段階っぽい。
一人一人観察してみるけど、やっぱりランクの違いみたいなモノがあからさまに分かる。特に、無駄にキョロキョロしてる数人とか、絶対に場慣れしてないもん。
参加者の中には女の子の姿もちらほらあったけど、このグループにはボク一人だけみたい。冒険者を志す女の子は言霊使いな事が多いから、Eランク以下がほとんどだっていう武術大会だとよくある事なんだと思う。
(むぅ、ボクばどう闘おうかな……?)
思えば、魔物と闘う経験は結構積んできたけど、人間相手となると生まれて初めてな気がする。村での何気ない喧嘩とはわけが違うし。
観客席のどこかにおししょー様がいるはずだけど……っておししょー様を探してどうするのさ! ここで頼ったってしょうがないのに!
と、動きがないボク達に痺れを切らしたのか、早く闘え、みたいに囃し立てる観客達。確かに、こうしたって埒が明かない。
「行っくよぉぉ……!」
ひとまず、一番近くにいる人をロックオン。ボクは足に魔力を集中させつつ、しゃがみ込んだ。そして、
「たぁっ!」
真横に、ジャンプ! 獣の動きを真似して、可能な限り姿勢を低く低く!
溜め込んだ魔力を爆発させるイメージ。修行の成果か、そのイメージと完璧に噛み合った。ぎゅん! と一気に距離を詰め、
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
避ける事すらできずに叫ぶその人の頭に、草刈鎌の柄を叩きつけた。やっぱり、刃が潰れてるとはいえ斬り付けるのは気が引けるよぅ。
その人は衝撃でそのまま倒れこんだ。倒せた……っぽい。うん、まずは一人!
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
本格的に闘いが始まって、大歓声が沸き起こる。と同時、舞台にいる他の冒険者さんの視線が一斉にボクを射抜いた。
さっきまでの『なんだこの場違いな小娘は』みたいな失礼な視線とは違う。なんて言うかこう、獣を前に最大限警戒してる感じというか?
そして、冒険者さん同士で目配せしつつ頷いて……次の瞬間。
「ふわっ!?」
二十人近い冒険者さんが、一斉にボクの方に突撃してきた!
これって多分……厄介そうだから先に倒してしまおう、みたいな感じ? むぅ、ちょっと目立ちすぎちゃったのかも……、
「……でも!」
この程度の事で臆してる場合じゃないし! ボクだって、どうせ出るなら大会で優勝しておししょー様にボクの成長を見せつけたいんだ!
幸いと言うか、元々散らばってた事もあって皆はそこまで固まってるわけじゃない。って事は、合流される前にぼこ倒す!
一人一人素早く、確実に。魔力で強化して、常に全速力で動けるように……。
ボクは体の内側から魔力を捻り出し、それを全身に漲らせていく。大丈夫、おししょー様との修行を思い出せ。
多分、この人達全員を合わせてもおししょー様の方がまだ全然強い。ここで負けるようじゃ、おししょー様の弟子を名乗れない。
殺さないけど、皆殺しだ!
「うおりゃああぁぁぁぁぁ!!」
押し寄せてくる人波に気圧されないように自分を鼓舞し、ボクは走り出した。
誰を狙ったらその次の行動に移りやすい? 強そうなのはどの人? 絶えず脳みそをフル回転させながら、導き出した道筋に沿って鎌を振るう。
そして、全てがボクの思い通りになった。狙いを定めた相手が次々と倒れ、避けようと思った攻撃が空を切り、どんどん体が加速していっているのが自分でも分かる。
歓声もどんどん大きくなっていって。それに背中を押されるようにボクのテンションも昂っていく。
やってる時は無我夢中だったけど。後から思い返すと、ボクはこの闘いを純粋に楽しんでた。楽しめていた。
「よしっ、次っ! ……って、あれ……?」
他の人よりも手練れっぽい槍を持ったお兄さんを殴り倒した後、ボクは次の相手を求めて辺りを見回す。けど、立っている人はもう誰もいなくて。
『おぉっと凄いぞ! もうAグループの闘いが終わっちまったぜ!』
司会者さんの声が、歓声に負けないくらいの大きさとなって響き渡る。闘技場に渦巻いた熱気と一緒に、青空へと天高く立ち上っていく。
『勝ったのは優勝候補の一角、〝神速の槍使い〟キシリアか? いいや違うね。みんなも見てたよなぁ?』
え? 槍使いって、もしかして最後の人の事かな? 優勝候補だったみたい……にしし、ボクってちゃんと強くなれてるのかも!
『番狂わせ、とかほざくヤツは酒の飲み過ぎだ、目ぇ覚ませ! そのキシリアを一瞬でぶっ倒しちまったあの子がニューヒロインだ!』
どんどんヒートアップしていく司会者さんと歓声。ふわぁ……すっごいや。
おししょー様の言う通りなら、ボクは今この人達の〝希望〟になれてるって事なのかな? ちょっと恥ずかしいけど、それ以上に誇らしいかも。
『って事で、勝者! アスミアぁ!! ワトナぁ!!!』
「にしし……しょーり! だよぅ!」
満面の笑顔でピースすると、今までで一番の歓声が押し寄せてきてちょっとビビった。
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