はっちゃけたくなる時もある、人間だもの

 ディアーネ達を見送った、その三日後。


『さぁ始まりました! ネスティス名物、武術大会!』

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ボクはなんかこう、場違いな場所に立っていた。


 村の田んぼを十個くらい組み合わせたぐらいの、とぉっても大きな石の舞台。

 それを円形に取り囲む壁。

 壁の近くの観客席から、舞台にいるボク達を見下ろす沢山の人達。


(ふわぁ……すっごい熱気だぁ……)


 この空気にちょっと呑まれてたボクは、真っ青に広がる空を見上げながら一つ深呼吸した。


 冒険都市ネスティスには、この街にしかないモノが二つある。

 一つは冒険者協会。そしてもう一つがここ、『闘技場』。


 高さだけで言えば冒険者協会がネスティスで一番高くて、遠くから見て一番目立っていた。この闘技場は高さは全然だけど、めっちゃくちゃ広い! その中に立ってると自分がとってもちっぽけに思えてくる。

 冒険者協会が管理してるここは、普段は冒険者が訓練をするために使われてるみたい。なので、基本的には冒険者以外立ち入り禁止なんだって。 


 そんな制限がなくなるイベントの一つが、この武術大会。

 年に四回、季節の変わり目に催されてるこの大会の時には、冒険者以外の人達が観戦の為にすっごい勢いで押し寄せる。今みたいに。

 ここは元々『練武場』って名前なのに、こういう大会の為の場所、ってイメージがあまりにも広がっちゃったせいで『闘技場』に変える事になったとか。


『こんなご時世だからこそ、新しい世代のヒーローの誕生をその目で見届けようぜ! って事で、つまんねぇ前口上はさっさと終わらせて、おっぱじめちまおうかぁ!』

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 うわぁ……〝音〟の魔動器、『ティーパ』で声を大きくしてるっぽい司会者? って人も、完全に酒盛りを始めちゃってる観客達も、ボクの周りにいる武術大会の参加者達も、みんなノリノリだよぅ。


 ホント、お祭り騒ぎってヤツだ。アゾート村にもお祭りみたいなものはあったし、結構盛り上がってたけど、文字通り桁が違う。

 みんなでこれを、全力で楽しもうとしているんだ――――





「―――――武術大会?」

「えぇ、そうよぉ。アスミアちゃんも参加してみなぁい?」


 ノクトスさんとディアーネを見送った後、一階に戻ったボクにメメリエルナさんが言った。


「それはいいな。訓練にもなるし、アスミアならば良い勝負ができるだろう」

「おししょー様まで……っていうか、武術大会って何なのぅ?」


 メメリエルナさんが武術大会について説明してくれる。小難しい話を抜きにすると……単純に強い人を決める為にみんなで盛り上がろう! みたいなモノみたい。


「お祭り、かぁ……でも、どこも魔物で大変なのに、そんな事してていいのかなぁ」

「こんな時だからこそ、だ。いつ死ぬかも分からないこのご時世、みんなで集まって息抜きを、もっと言えばバカ騒ぎが出来る機会を誰もが求めてる」


 おししょー様は外を見やりながら言った。少しだけ憂いのある表情で。


「特に闘う力を持たず、私達冒険者に頼らざるを得ない人々にとっては、ある種の希望にもなる。この大会が白熱するという事は、それだけ魔物に対抗できる人材が充実しているという事だからな」

「あ、そっか」


 じゃあ、例えばボクが参加して活躍できれば、たくさんの人に勇気を分けてあげる事が出来る、のかなぁ? それはちょっと嬉しいかも。


「ならおししょー様も参加するの?」

「いや、私は遠慮しておこう。この大会は『武術』大会、武器以外で闘う事が認められない。言霊使いの私よりも、君の方がこの大会に参加するに相応しい」


「Cランク以上の言霊使いは参加したがらないしぃ、Dランクの非言霊使いの手練れは依頼に掛かりっきりでそんな暇ないしぃ、高くてもEランクの冒険者しかいないわぁ。アスミアちゃんならきっと良い結果を出せるわよぉ」

「そ、そう、かな……でも、人間同士で闘って怪我をさせちゃったら……」

「心配ない。参加者の得物に沿った武器の刃を潰したモノが貸し出されるし、今回は優秀な治癒の……〝水〟の言霊使いも常駐するようだからな」


 そう言っておししょー様はメメリエルナさんを見る。あ、そっか。メメリエルナさんは〝水〟の勇者なわけで。


「くすくす、困っちゃうわぁ。どうせ治療するなら可愛い子の方がいいけどぉ、可愛い子が怪我するのはイヤだものぉ」

「私も治癒の真似事をしたが、本職の彼女からすれば児戯に等しいさ」

「そっかぁ……それじゃ、大丈夫だよね」


 別に自惚れてるつもりは無いけど、これでもハイオークとゲイルハウンドを倒してきたんだ。死に掛けたりもしたし、それなりに経験は積んでるはず。その経験で人間を殺す事がないのは、気分的に楽かも。

 よし、それじゃ腕試しの感覚で頑張ってみようかな? 意気込むボクに、おししょー様が朗らかに言う。


「彼女がいる限り、そう簡単には死ねないさ。安心して闘うといい」

「……あ、うん」


 簡単には死ねない……おししょー様? 違う意味で参加したくなくなったよぅ――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る